「いやいや、そんなわけないよね? 僕なんかを紀ノ川七段が知っているなんてわけないね。あああ、もう本当に憧れてたんです、感無量です!」

子どもモードになっている。

ヒーローショウで憧れのヒーローを見たときの眼差しになっていが、それもまた整った顔立ちにはよく似合っていた。

紀ノ川さんはしばらく黙り込んだ後、がっくりと肩を落としてボソッと呟く。

「わああ、格好いい人だ……。社長さんだもんな、太刀打ちできないし、この外見……僕なんて比べようもないし、やっぱり無理だ……」

ガクッその場に力なく膝をつく。

「紀ノ川さん!」

「七段!」

駆け寄ったのは私と裕哉と同時だったが、先に手を出し紀ノ川さんを受け止めたのは裕哉だった。

「大丈夫ですか? ご気分がすぐれないのですか?」

「……もう僕はダメだ……」

「ダメ!? 海音ちゃん、救急車を!」

慌てすぎて紀ノ川さんを横抱きに抱える裕哉に、私は落ち着くように言った。

「待って裕ちゃん。まずは状況確認からよ」

すぐに紀ノ川さんの側に膝をつき、意識確認をする。