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泣いた目が恥ずかしくて、仕事が終わるまで俯き加減だった。
諸岡さんはさすが秘書の鑑。
まるで何事もなかったかのようにキビキビと仕事をこなしていた。そんな姿には憧れを抱くけれど、やはり好きと言う感情とは種類の違うものだと改めて思う。
「井波さん、あと十分で仕事を上がるから、準備をしておいて」
内線で裕哉からの指示が来る。
宣言通り、今夜は送っていってくれるつもりのようだ。
チラリと一瞬だけ諸岡さんがこちらに視線を走らせたけれど、すぐに明日のスケジュール管理の準備を始める。
私は手早く広げた資料を片付け、デスクの上に置いている紙コップのコーヒーを飲み干す。
すっかり冷えたコーヒーの苦みが、今の私の気持ちにシンクロしていた。
車を走らせる裕哉の横顔に街の灯りが流れる。
何から話せばいいのか、お互いに口を噤んだまま車は静かに道路を流れるように走る。
「海音ちゃん……」
ようやく裕哉が口を開いたのは、私のマンションが見えてきた頃だった。

