「井波さん」
藤川に気がついた紀ノ川さんがサッと私を背中に隠してくれたが、藤川はすぐこちらに視線を動かすや、ゆらゆらと歩み寄る。
「みお、そいつがおまえの新しい男か? 趣味悪いな」
聞きたくない声。ぞっとする。
「あんた、俺にこいつを譲ってくんねえ? 俺、こいつの元彼だから、譲ってもらう権利あるよな?」
紀ノ川さんに詰め寄る藤川の吐く息は酒臭かった。
「や、やめて……彼に迷惑をかけないで」
震える声で叫んだが、すっと紀ノ川さんが私の肩を抱き寄せ藤川に凛と言い返した。
「彼女はあなたを選ばない。一度断られたなら、男らしく引いたらどうなんですか」
「はああ? てめえ、弱そうなくせに、態度デカイな」
紀ノ川さんの腕に力が入っている。
きっと緊張しているのだろう。それでも守ろうとして、必死に耐えてくれている。
そのことが逆に私の奥底に眠る気持ちを揺り動かした。
――前を向いて歩くために、藤川とちゃんと決着をつけなければ。
強くならなければと、その気持ちが湧き起こった。

