私なんて、ショコラティエを目指して頑張っている真央くんみたいにうまく料理も出来ないし、夢もないし、可愛くないし、三十路だし……

これ以上真央くんを振り回しちゃいけないことくらい分かってるんだけどね……。


「なあ、休憩もう終わるんちゃうん」

「あっ……!そうだった!そろそろ戻るね!ありがとう!またね!」


荷物を抱えた私は、急いで真央くんの家を出た。

一時間の仕事休憩時間にも会いたくて、時々、こうして真央くんの家に押しかけてしまうのだ。

きっと、真央くんは迷惑と思ってるに違いないけれど、私はこんな少しの時間にも会いたくてたまらない。そのくらい、真央くんのことが好きなんだ。


───しかし


「夏目さんまた彼氏くんとこ行ってきたの? そんな、自分のこと好きじゃないような彼氏やめときなさいよ」

「う……でも、好きなんですもん。別れた方がいいのも分かってるんですけど、どうしてもできないです」

「いやあ、それにしてもねえ……その夏目さんの本気と根気は凄いわぁ……他の女子よりメンタル強めよね」


私の働く不動産会社の先輩、綺麗に巻かれたロングの黒髪が綺麗な三村香穂子(みむらかほこ)さんはそう言う。