「……あ!真央くん!」
別れないと。でも、別れたくない。それでも、別れないといけない。
そんな葛藤を繰り返しながら迎えた二月十四日、バレンタインデー。
残念な事に、真央くんはパティシエになるに向けて絶賛修業中であるため、少しの時間しか会えない事になってしまった。だから、真央くんが休憩中である今しかチャンスはない。
駅前のベンチに腰掛けて手を挙げた私の元へ真央くんがやって来る。
ドクン、ドクン、と胸の鼓動が高鳴る。
「……ごめん、待たせた。あんま時間ないねんけどええ?」
「あ、うん!大丈夫!渡したいものと、少し話したいことがあるだけだから」
平常心、平常心。
私が泣いてしまったりすれば、困るのは真央くんだ。また真央くんが我慢しなければならなくなるんだ。いつも我慢させてきたんだから、今日は私が我慢する番。
「渡したいもんは大体予想つくけど……話したいことって?」
一回、二回、と深く深呼吸をした。
私が次に発する言葉で私たちの関係は終わってしまうんだ、と改めて感じて怖くなった。

