ピロロン。
携帯を見ると、あなたからの
メッセージが画面に表示されていた。
「来週の金曜日飲みに行こう」
私はカレンダーを見る。
予定日間近。
でも大丈夫だよね。
飲みに行こうか、って言いながら
車で迎えに来る。
あの言葉を使う代わりに
「飲みに行く」という隠語が
2人の間で使われている。
「来週…」
会えることに期待しちゃいけない。
会えないと思ってないと、辛くなる。
「ごめん、今日無理なった。
嫁の機嫌悪くて…」
こんなの毎回よくある事だった。
何週間か前の約束なんて
簡単に破られてしまう。
「会いたい…」
この頃の私は
玩具が欲しくて
買ってもらえるまで駄々る
子供のようだった。
会いたかった気持ちを
押し付けるように
私はあなたを困らせる。
会いたい。ほんの一瞬でも会えたら
それでいい。
「わかった。もう少し機嫌伺ってみるわ。行けたら連絡する。」
1時間、2時間待つこと。
それは1番苦しい時間であっても
1番待遠しい時間。
何時間も待って電話が鳴る。
これが
家を出た合図だった。
嬉しかった。
私のためにここまでしてくれることが。
例え自分の快楽のためだと
いわれてもいい。
私はこの結果に満足する。
車の中で何事も無かったかのように
あなたがいる。
私も何事も無かったかのように
当たり前にあなたの隣に座る。
「どこへ行く?」
わかっててもあなたはそう聞く。
「ご飯食べた?」
「食べました」
「じゃあどこ行く?どこでも
連れていってあげるで」
「あなたと一緒にいたい」
「どこなん?」
「言わんと分からんで。ホテルけ?」
あなたはいつも少し意地悪する。
やるだけが目的じゃないと信じたい。
でも、やることが目的じゃない私たちは
2人で会う意味さえなくしてしまう。
愛してるからと信じたい。
誰かのものでも、本当は愛があると
信じてたい。
夢のような時を過ごして
現実に戻る。
「そろそろ帰るな」
「え?もう帰るんですか?」
時計は12時を過ぎていた。
「やだ、まだ一緒にいたいのに…」
泣いてしまう私をきゅっと抱きしめて
頭をポンポンする。
「また時間作るから」
本当にそう思ってるかどうか
わかんない。
内心は泣かれて面倒だから
適当にそう言っただけかも
しれない。
「1人で帰れるか?」
「はい…」
「じゃあな。
あ、あんまLINEしてこんといてな。
バレるとヤバイから」
最後にそう言い残して
ホテルの扉を閉めた。
心無い言葉。
私は待つことしかできない。
あなたの言いなりになることしかできない。
離婚して。と問い詰めれば
きっともう会ってくれなくなる。
「お前といたら楽しい。
ご飯も美味しそうに食べるし
チーズケーキ作ってくれるし、怒らんし。好き」
好きだと言ってくれるのに
どうして一緒になってくれないんだろう。
子供がいるから?
だったら私が育てる。
幸せにする。
でも、奥さんは?
裏切られた奥さんはどうなるの?
顔も知らない。
奥さんもなんにも知らないで
今日を生きている。
なんにも知らないで
今日も夫を送り出している。
そんな顔を想像したら
卑屈にも笑えてきた。
馬鹿だね、最低だね。私。
好きにならなければ
こんな辛い思いしなかった。
あなたに出会わなければ
こんな、もどかしい気持ち
一生知るはずなかったのに…。
1人になった
ホテルの一室で
「ツラ…ィ」と零し
大きな声で泣いた。
涙枯れるほど。
そして
疲れきって眠りについた。
いつ夜が明けたのか分からない。
ホテルを出ると
眩しすぎる光が目に差し込んで
通り過ぎのお姉さんに
マジマジ見られた。
こんな童顔の女がホテルから
出てきてビックリしたのかな。
ごめんね、私。
19歳でホテル置き去りにされたよ。
ごめんね、もっと自分大切に
するべきだとわかってても
もう汚れてしまったから。

