「最近、ママおかしいよ!
夜は遅いし、部屋に閉じ
こもってばっかりだし。
パパが可哀想!」


高校3年生ぐらいの時
あたしは、浮気をしてる母親に
涙ながらに訴えた。


浮気するなんて
母親のすることじゃない。
なんて不謹慎なんだろう…って。

それなのに、それなのに…。

私は母親と同じ
大きな誤ちを犯してしまう。

それは私がまだ19歳の時。
長期休暇で会社の上司と
呑みに行った時の話。

夜中まで呑んでて終電を逃した。
彼は結婚してるから、タクシーで
家に帰らなくてもいいんですか?と
私は一応そう尋ねた。

一応というのは、私も
本心は家に帰って欲しくなかったから…。

「今更家に帰っても怒られるし。
朝に帰っても怒られるから、
今日はもう帰らないわ」

「じゃあ、今日は飲み明かしましょ」

ホテルなんて頭になかった。
好きだったけど
手も繋いでないし
キスもしてない。

それに彼には
家庭があったから
私のことなんて
ただの後輩とでしか
見ていないんだろう。
そう思ってた。

「疲れた。どっか泊まろか」

あなたはスイスイとホテル街を
歩いて回る。

深夜2時をまわっていて
どこもいっぱい。

「ホテル来たことある?」
「ないです」

「うそや」
「本当ですよ」と、私は嘘をつく。

ようやく見つけたビジネスホテル。
ビジネスホテルか。
少し安心した。

もしかしてを期待してたけど
やっぱり、本当にお風呂に入って
寝るだけでしょ。

「あ、先にお風呂どうぞ。
私は後でいいんで」

「一緒に入ろ」

「え?冗談…」

「俺は別にええで。まあ気が向いたら
お風呂おいで」


お風呂…。一緒に入りたい。
体は勝手に裸になってく。
足はお風呂へ向かう。

「お、きたんか」

狭い湯船の中
貴方は後ろから抱きしめてくれた。

「すきや」

「え?」

「俺、ほんまお前のこと好きやった。
俺の後輩がお前でよかったわ」

お風呂からあがってベッドにはいると
「あーあ」とあなたはため息をつく。

「どうしたんですか?」

「やっぱやりたくなるなー。
こんなカッコしてると。
あかんなー寝よ!」

と、言って布団にもぐるあなた。


「いいですよ」

私はあなたの手を握る。

「え?」

「私、あなたが好き。
だから、いいです…」

「いいの?俺で。初めてちゃうん?」
「あなたが好き。だから、いいの」

19歳の冬、大阪のキラキラしたネオン
を、あの人と一緒に歩いた。


あの時、私は付き合ってる彼氏がいた。

「彼氏初めてにしなくてええの?」

あなたは少し心配そうに訊ねる。

「いい。私あなたがいい」

初めてなんて嘘。

「ほんとに初めてなん?
2年も付き合ってる彼氏おるのに?」

「ほんとに初めて」

嘘も軽々突き通す。
男は初めてに弱い。

それに
正直2回だけだし。
やってないのと同じぐらいだわ。と
自分に言い聞かせて…。



「浮気するなんて最低だ」

脳裏によぎった母の顔。
あれほど母を嫌ってたのに。

自分も同じなんだと。
ああ、自分も結局「母の子」なんだと。



彼氏がいるのに平気で「浮気」して
奥さんがいる人と同じベッドで寝てしまう。

ねえ、どうして
あなたは結婚しているの?

もう少し出逢うのが早かったら
私たち幸せになれていたのよね?

悲しすぎる運命とは
こういうことをいうのか?

ううん、違う。

本当に1番悲しいのは
裏切られた奥さんだろう。
子供たちだろう。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな私をどうか許して。
許して。

「好き」
「私もあなたが好き」

「俺、結婚してなかったら
お前と結婚してた
ずっと好きだった」


好きな人に抱かれて
本当に幸せだった。

都合のいい言葉並べられてるだけだと
わかっていても。


あなたとキスをする時
生きてて良かったって思ったよ。

辛いことたくさんあったけど
生きててよかったって。


付き合ってた彼氏を好きになった事は
なかったから。
だから
彼とキスをしても、なんにも感じなかった。

このまま流れるように結婚するのかな?って。
好きでもない人と一生を遂げるのか。
他の男も知らず死んでくのか。
諦めてたから。

「幸せの味」
それを教えてくれたのは
あなたでした。

でもあなたは
奥さんのものだから。

私はいつも、影に隠れてなきゃ
いけなかった。

19歳にして
不倫してしまった私の心は
ボロボロになっていく。