あの日から数日経ったあたしたちは今も何の変わりもなく過ごしてる。
気まずくなって舜も来ないかなって思ったのに…いつも通りきた。
舜にとってあれは大したことじゃない。
ーーーそう、思わされた。
この数日間で変わったことはただ1つだけある。
「まりか!おはよ!」
「舜ちゃんおはよ!!」
「っ…まりか、おはよう。」
「ゆーちゃんおはよ!」
そう、舜が比野から“まりか”と呼ぶようになった。
そして、まりかは“舜ちゃん”と呼ぶ。
その呼び方はあたしだけのものだったのに…
何で簡単に呼ばせるの。
それはあたしだけのあだ名じゃなかったの?ねぇ…舜ちゃん…
あたしはもう“舜ちゃん”って呼べないよ…。
「…朝から暗い顔してんなよ」
「航平…」
「んな泣きそうな顔してみんなよ…わかるけどよ…」
「航平、ごめんね。いっつもごめん」
「ゆめが謝ることねぇよ。俺がしたくてして、側にいたくているんだ」
「航平ーー………」
「教室行こうぜ」
航平は変わらずいてくれる。
航平、ごめんね。
航平、ありがとう。
まだ出会ってそんな日にちも経ってないのにどうしてこんなに頼れるのか。
航平に頼ってばかりのあたしは相当ダメダメだと思う。
今は何も考えたくない、嫌な考えしか出ないから。
自分を嫌いになってしまいそうだよ。
「ゆめ」
「舜。どうしたの?」
「あいつといるなって言っただろ」
「…航平はいい人だって何回も言ってるじゃない」
「ゆめはなんでそんなにあいつをかばうの。」
「へ…?」
「なんで俺が言ってること信じて行動してくれねぇの」
「いくら舜でも、間違ってるからだよ」
そう、舜はいまでも航平を嫌う。
そしていつもあたしを怒る。
ヤキモチみたいな態度とって。
独占したいような態度とって。
でも舜の心は違う。…あたしじゃない。
それをすごくすごく…痛いくらい知ってるから泣きたくなる。
心が“痛いよ”って泣くんだ。
でもあたしは、傷つくとわかってても嬉しくてまた傷つく。
あたしの心はもうボロボロだ。
「舜ちゃーん!もうカネなるよー」
「あ、おう!じゃあ、帰りな」
「あたし、バスケ部のマネージャーやろうと思ってるの。もう、帰れない」
「は?…ちょ、ゆめ!おい!」
無視し続けた。
声なんか聞こえない。
あたしの名前を呼ぶ愛しい声なんて……きこえないよ…っ…。
舜に恋しなきゃあたしは幸せになれたかもしれない。
でもあたしは、舜が時々側にいてくれる時間が幸せなんだ。
結局…やめられないんだ、この恋を。
「おい、ゆめ」
「んー、なに?」
「お前、やんの。」
「やるよ?航平は?」
「お前がやるならやる」
「あたし女バスの予定なんだけど」
「男バスこいよ」
「嫌よ、睨まれたくないもん」
「なんかあっても守ってやるから。頼む、側で見てて」
「っ…仕方ないなぁ…」
そんな子犬みたいな瞳で見られたら拒否できないじゃない。
ーーー航平のずるっこ。
あたしは、マネージャーをする。
すこしでも舜と離れて、舜を考える時間をなくすため。
そうすればいつか、この気持ちが薄れるかもしれないから。
それを信じて待つしかないから。

