「ちょっ!誰があんたの婚約者なのよっ!」


「誰って。恭華しかいないけど。」

余裕たっぷりに笑うと、須賀は私にだけ聞こえるくらいの小さな声で


「……なんなら、ここでキスする?」


そう言って、私の耳たぶを噛んだ。


私は声にならない声をあげ、噛まれた耳を手で隠す。
すずは、『キャー!』って声をあげて、マネージャーはびっくりして口がポカンと空いている。


「なんか、キスするよりもエロかったな。」


そう言ってクスクス笑うのは須賀だけで、私は怒りがピークに達する。



「おいこらっ!仕事場で何するのよっ!」


私が怒っているのに、なぜか須賀は満足そうに名刺を1枚出すと、


「ハイハイ。お説教は、今夜夕食の時にでも聞きますよ。どうせ俺の連絡先登録してないんだろ?ここに、仕事終わったらかけて。」


私は差し出された名刺を受け取らず、腕組みをして、そっぽを向く。


「私、今日予定あるし。」


すると今までキャーキャー言いながら事を見ていたすずが、急に真顔になり


「あっ、恭華先輩。私今日彼氏と予定あるんで無理です。」


と空気を読まず、須賀の目の前で私の誘いを断る。


須賀はそれを聞いて、妖しく笑う。


「………だって。じゃあまた後でね。恭華。」


須賀は私の制服の胸ポケットに名刺をスッと入れた。


「なっ!行かないからねっ!てゆうか、呼び捨てにするなぁー!!」



須賀はヒラヒラと手を振りながら去っていった。