「美波。僕に時間をくれないか?妻との事はいずれちゃんとするから……」


そう言いながら山井さんは私に手を伸ばす。
パシッと、須賀が山井さんの手を振り払う。


「恭華が欲しいなら、今ここで奥さんに電話しろよ。いずれなんて曖昧にせずに、今ここで別れろよ。本気なんだろ?」


山井さんが狼狽える。


「なっ、君には関係のないことだろ!!」


「別れるんだろ?なら今日がいいきっかけじゃないか。さっさっと、電話しろよ。」


「山井さん………」


私は抱きしめられていた須賀の腕を離す。
山井さんは、私にいつもの笑顔を向ける。


「美波。俺と来てくれるんだろ?」


「山井さん。私は確かに仕事に関しては山井さんに憧れていました。でもそれは、異性として憧れていたわけではありません。」


山井さんの顔が歪む。そしてそれは、ハッキリと怒りの表情へと変わる。



「なんなんだよ!俺の事意識してたから、ちょっと遊んでやろうとしただけなのに!勘違いするなよ!お前みたいな女……」


そこまで言って、山井さんはドサッと地面に倒れた。
そして、頬を押さえながら茫然として須賀を見つめる。


「それ以上、俺の前で恭華を侮辱するな。」


須賀の聞いたことのない低く冷たい声。


「………さっさっと行けよ。目障りだ。」


山井さんは、急いでカバンを拾うと走って逃げていった。

私、あんな人の何に憧れていたのだろう。


そして、チラッと須賀を見る。




「ありがとう。」