私は汚れている。
どれだけ海の波が爽やかに引いても、その事実が消える訳ではなかった。
見知らぬ男に犯され、友だちに犯され、会社の上司に唇を奪われ、兄に犯された。
「お前は汚ないお前は汚ないお前は汚ないお前は汚ないお前は…汚ない…」
「お前なんかが幸せになれると思ってるのか、汚れた奴め…」
「死ね、死ね、クスクス、死んじゃえば、ほんと、死ねばいいのに…」
幻聴が私を縛りつける。
想像妊娠と想像流産を2回。
いまだに、想像だっただなんて信じられないでいる。
妊娠できない身体のくせに。
こんな私だ。
汚れてないという言葉を口にできるほど、私は強くない。
吹っ切れるはずも、忘れられるはずもなかった。
身体中がかゆい。
私はアライグマになったかのように、身体を洗って洗って洗った。
思いっきり、自分を切りつけたくなる。
何かが、私を止める。
「綺麗だよ」
耳を通って、指の先まで届く彼の声。
身体も心も裸の私を彼はまるごと抱きしめる。
身体が少しずつ倒されてゆく。
一瞬、フラッシュバックに頭を抱える。
彼の声、彼の手、彼の首筋、彼のお腹。
全て、彼にしかないもの。
私しか見れない特別な彼。
鮮明に脳を支配しかけた過去の黒歴史がだんだん薄れてゆく。
せっけんとは違うものが、せっけんでは得られない美しさを私に与えてくれている気がした。
温かい。
こうゆうのをヌクモリというのだろう。
ゆっくり、2人で眠りに落ちた。
静かに一筋の涙が頬をつたった。
また1つの夜。
明日も彼に出逢えますように。