目覚まし時計の音は、しんどい私の身体にさらに追い打ちをかけた。
夏の太陽がジリジリと照りつける。
病院に入ると、いかにも病院ですと言わんばかりの消毒液独特の匂いが鼻をつく。
新しくなって綺麗にされた病棟。
されど、おんぼろ大学病院だ。
ここに来て、私は一体なにを得ているんだろうか。
なにをしにきている?
杖をついて歩く私。
点滴パックをつけて歩く私。
車椅子に乗る私。
人工呼吸器をつける私。
全く耳の聞こえなくなった私。
呼吸器のせいでうまく喋れない私。
手話をする私。
目がうつろな私。
寝具型車椅子に乗る私。
寝たきりになる私。
手術室に入っていく私。
ICUにいる私。
色んな私の将来像が襲いかかってくる。
悲劇のヒロイン?
ばかやろう。
一体、どこまでひどい状態になったら、彼は私から離れてしまうだろう。
でも、想像が進んでも頭の中の彼はずっと、私の隣で穏やかに笑っていた。
きっと、私にはわかっていたのだと思う。
確認などしなくても、彼はいなくなったりしないことを。
私はほとんど確信していたのだ。
彼の気持ちが本物であってくれていることを。
そういえば、彼の妹の手術がもう目の前に迫っていた。
「空ちゃん、大丈夫よ」
心の中で呟いた。
彼の妹は、私の大切な妹でもあった。
怖い気持ちは拭えない。
不安は少し軽くするのが精一杯だ。
だから、淋しい思いだけはさせまいと思った。
「傍にいるよ」
不器用に手縫いで作ったテディベア。
私の代わりに空ちゃんの隣にいるのよ?とエミーと名付けたピンクのくまさんに声をかける。
心なしか、エミーはうなずく。
空ちゃんが手術することで得られる明るく楽しい未来を考えたら、私の将来の悩みなどくだらなく思えた。