「よぉ、京一郎！」


明彦は嬉しそうに手を振りかえす。


京一郎には何もかも負けている明彦だが、劣等感など微塵にも感じられなかった。


「この美たちもデート？」


明彦がいる手前、あたしもあからさまに嫌な顔はできない。


仕方なくこの美にそう声をかけた。


「そうだよ。テストが終わってやっと安心できたからねぇ」


そう言い、この美はほほ笑む。


しかし、その手には大きなトートバッグが握られていて、中には教科書やノートが見えていた。


休日に京一郎と2人で勉強をしていたのだ。


勉強していたならそう言えばいいのに、わざわざ隠すと言う事はあたしの事をライバル視しているからだろう。


あたしは横目で京一郎を見た。


京一郎と明彦は本当に仲がよさそうに会話をしている。


どちらも、相手をライバルだとは思っていない様子だ。


だけど、あたしは明彦の能天気さに飽きれていた。


自分よりも勝っている相手を目の前にして、ホワイトタイガーの耳かきを出して喜んでいる明彦。


どうして京一郎に勝ちたいとは思わないのだろう？


2人が勉強をしている間、あたしたちは動物園にいた。


それだけで、十分に成績の差が広がっていくのだ。