2年前、おばあちゃんが死んだ。
それまで病気になんてなったこともなくて、私が小さかった頃は一緒に遊んでくれるくらい元気なおばあちゃんだった。
病が急におばあちゃんを奪っていったのだ。
おばあちゃんの死に目に私は立ち会った。
病室のベッドの周りには父と母、そして私の3人だけしかいなかった。
祖父は私が生まれた時にはもういなかった。
血色の良かった顔は白くなり、何度も繋いだ手は細く、まるで骨のようだった。
もう目もよく見えなくなってしまったおばあちゃんは、私の名前を呼びながら手で探した。
私は細い手を両手で包んで、出来る限りの優しい声で「なに?おばあちゃん」と言った。
「ひかり、あなたが生まれてきてくれて良かった。ひかり、見たいものを見なさい。行きたいところへ行きなさい。したいことをしなさい。私は…」
話をしている途中に高い機械音が病室に響いた。
おばちゃんは死んでしまったのだと、理解はできた。
すごく昔のことを思い出した。
小さい頃、クリスマスに大きなぬいぐるみをくれたこと。
冬に遊びに行けばみかんを何個も剥いてくれたこと。
ひかり、ひかり、と呼ばれて振り返れば、おばあちゃんはいつも優しい笑顔でいた。
そして、私が生まれる前のおばあちゃんを想像した。
おばちゃんにもまた、私と同じような思い出があるんだろう。
小さな頃はおばあちゃんの家のある田舎で虫を追いかけたんだろうか。
学校へ行って私と同じように、勉強したんだろうか。恋をしたんだろうか。
おじいちゃんとはいつ出会ったんだろうか。
聞きたいことが溢れてきた。
そして孤独感に襲われそうになった時、父が私の横へきて、肩を抱いてくれた。
母は、声をあげて泣いていた。私の肩から父の手が震えているのがわかった。
私は…。
その続きはなんだったのだろうか。
おばちゃんは何をしたかったのだろう。
中学三年の秋の夜。
窓の外から風に乗って聞こえてくる虫の声。
揺れる風鈴の音。母の鳴き声。
私は悲しみに暮れた。
受験を控えていた私は、悲しんでいる暇はなかった。
私が行きたかったのは難関校で、必死に勉強した。
「ひかりならきっと大丈夫よ。頭のいい子だから」
おばあちゃんからの言葉に何度も支えられ、やっと合格した。
その頃にはもう冬になり、卒業まで数週間を切っていた。
私には好きな人がいた。
その人は、よく笑う。
目立つ人達から、私のような地味な人にまで話をして笑うのだ。
私のクラスはとてもいいクラスなのは、彼のおかげだった。
気が利いて、誰にでも優しくて、笑顔が素敵な私とは真逆の光のような人だった。
気の合う友達もたくさんいた。
でも、彼への気持ちを相談することはなかった。
すぐに卒業式の日になった。
私は、彼に思いを伝えようと決めていた。
式が終わり、みんな運動場に集まって話をしたり写真を撮ったりした。
私は友達と話しながら、彼の姿を探した。
見つけたのは、クラスで一番の女の子と下駄箱の前で一緒にいるところだった。
告白したのかされたのか、それを受け入れたのか断ったのかは遠くてよくわからなかった。
でも、私はそれを見てすぐに自分の決意を曲げてしまった。
自分の告白なんて意味のないものだと、引き裂いて捨ててしまった。
それから家につくまでのことはよく覚えていない。
集合写真もきっと上手く笑えていなかっただろう。
家に着くと、すぐに眠ってしまった。
夢におばあちゃんが出てきた。
おばあちゃんはとても悲しい顔をして、私を叱っているようだった。
でも、その声は聞こえなかった。
昔、おばあちゃんの家で、「みかんばっかり食べて、まだまだ子供だな」と父に言われておばあちゃんが剥いてくれたみかんを投げてしまった時のことを思い出した。
それから少しして、卒業式の日のあの出来事のことを友達から聞いた。
彼は告白されて、断ったらしい。
私はこの時初めて、後悔というものを知った。
それまで病気になんてなったこともなくて、私が小さかった頃は一緒に遊んでくれるくらい元気なおばあちゃんだった。
病が急におばあちゃんを奪っていったのだ。
おばあちゃんの死に目に私は立ち会った。
病室のベッドの周りには父と母、そして私の3人だけしかいなかった。
祖父は私が生まれた時にはもういなかった。
血色の良かった顔は白くなり、何度も繋いだ手は細く、まるで骨のようだった。
もう目もよく見えなくなってしまったおばあちゃんは、私の名前を呼びながら手で探した。
私は細い手を両手で包んで、出来る限りの優しい声で「なに?おばあちゃん」と言った。
「ひかり、あなたが生まれてきてくれて良かった。ひかり、見たいものを見なさい。行きたいところへ行きなさい。したいことをしなさい。私は…」
話をしている途中に高い機械音が病室に響いた。
おばちゃんは死んでしまったのだと、理解はできた。
すごく昔のことを思い出した。
小さい頃、クリスマスに大きなぬいぐるみをくれたこと。
冬に遊びに行けばみかんを何個も剥いてくれたこと。
ひかり、ひかり、と呼ばれて振り返れば、おばあちゃんはいつも優しい笑顔でいた。
そして、私が生まれる前のおばあちゃんを想像した。
おばちゃんにもまた、私と同じような思い出があるんだろう。
小さな頃はおばあちゃんの家のある田舎で虫を追いかけたんだろうか。
学校へ行って私と同じように、勉強したんだろうか。恋をしたんだろうか。
おじいちゃんとはいつ出会ったんだろうか。
聞きたいことが溢れてきた。
そして孤独感に襲われそうになった時、父が私の横へきて、肩を抱いてくれた。
母は、声をあげて泣いていた。私の肩から父の手が震えているのがわかった。
私は…。
その続きはなんだったのだろうか。
おばちゃんは何をしたかったのだろう。
中学三年の秋の夜。
窓の外から風に乗って聞こえてくる虫の声。
揺れる風鈴の音。母の鳴き声。
私は悲しみに暮れた。
受験を控えていた私は、悲しんでいる暇はなかった。
私が行きたかったのは難関校で、必死に勉強した。
「ひかりならきっと大丈夫よ。頭のいい子だから」
おばあちゃんからの言葉に何度も支えられ、やっと合格した。
その頃にはもう冬になり、卒業まで数週間を切っていた。
私には好きな人がいた。
その人は、よく笑う。
目立つ人達から、私のような地味な人にまで話をして笑うのだ。
私のクラスはとてもいいクラスなのは、彼のおかげだった。
気が利いて、誰にでも優しくて、笑顔が素敵な私とは真逆の光のような人だった。
気の合う友達もたくさんいた。
でも、彼への気持ちを相談することはなかった。
すぐに卒業式の日になった。
私は、彼に思いを伝えようと決めていた。
式が終わり、みんな運動場に集まって話をしたり写真を撮ったりした。
私は友達と話しながら、彼の姿を探した。
見つけたのは、クラスで一番の女の子と下駄箱の前で一緒にいるところだった。
告白したのかされたのか、それを受け入れたのか断ったのかは遠くてよくわからなかった。
でも、私はそれを見てすぐに自分の決意を曲げてしまった。
自分の告白なんて意味のないものだと、引き裂いて捨ててしまった。
それから家につくまでのことはよく覚えていない。
集合写真もきっと上手く笑えていなかっただろう。
家に着くと、すぐに眠ってしまった。
夢におばあちゃんが出てきた。
おばあちゃんはとても悲しい顔をして、私を叱っているようだった。
でも、その声は聞こえなかった。
昔、おばあちゃんの家で、「みかんばっかり食べて、まだまだ子供だな」と父に言われておばあちゃんが剥いてくれたみかんを投げてしまった時のことを思い出した。
それから少しして、卒業式の日のあの出来事のことを友達から聞いた。
彼は告白されて、断ったらしい。
私はこの時初めて、後悔というものを知った。

