ついこの間まで小学生だったのに気付いたらもう高校二年生。
毎日平凡な日々を送っている。

「凛おはよ〜」
「おはよう、侑」

侑は幼稚園、小学生、中学校、高校ずっと一緒な俗に言う幼馴染の男の子。
家も近くて、よく学校に一緒に行ったり暇があれば遊んだりしている。
というのも、私と侑は部活に所属していないため時間が合うのだ。

侑とは高校に入学してから本当によく一緒にいるようになった。

「侑、今日はバイト?」
「あ〜バイト」
「そっか…私今日バイトないし、久しぶりに理来の部活が終わるの待ってるわ」
「理来最近元気?」
「私もここ2週間話してない…侑は?理来と話したりしないの?」
「俺も話してないな〜」

理来は侑と同じで幼稚園から高校まで一緒の幼馴染。
でも、高校に入ってからクラスが違くなった事もあり、あまり話す機会が無くなった。それと同時に理来はサッカー部に所属して時間も合わなくなったのだ。
家は3人とも近いのに、理来だけは学校で少し姿を見かけるだけの存在になってしまった。

学校に着くと、サッカー部が朝の練習をしている。その姿を毎朝のように見ている。

「理来凄よね…」

ボソッと言葉が漏れる。
いつから理来の姿をこんな遠目から見るようなったのだろう。
いつも隣にいて当たり前だった存在の理来。いつからか、遠目で背中を見るようになっていた。

「毎朝学校に来るとサッカー部の朝練だもんな〜。そりゃ理来も遊ぶ時間なくなるよな」

昔までは侑も理来の予定とかいつも聞いていたけど誘っても誘っても部活ばかりの理来に最近は諦めている。

理来は何か本気になったものには熱心に最後まで頑張る。何があっても負けない。そんな所を知ってるからこそ諦めているのだろうけど。

私はどんどん遠のいていく理来の背中に寂しさを感じているのだろうか?
ただただ羨ましいだけなのだろうか?
自分でも自分の気持ちがよく分からないのは事実だ。


「じゃぁ俺帰るから」
「うん、バイト頑張ってね、侑」

侑は高校に入ってからすぐにカラオケのバイトを始めた。それに影響を受けて私もカフェでバイトを始めた。
バイトのない日は侑と遊んだり、友達と遊んだり。

今日は久しぶりに理来の部活が終わるのを待つ事にした。
教室で宿題をしながら終わるのを待つ。

ふと、窓の外を見ると問題を解いている手が止まる。
理来の姿。

私の隣には幼稚園の頃から理来と侑がいて、毎日3人で居る事が当たり前で。
特に理来にはべったりだった。
でも、いつからか理来が隣に居ない事が普通になっていった。
自分でも驚く程に今は隣に居ない事が当たり前だ。違和感も何もない。

ただ、遠くから理来の事を見ている時だけは違和感を感じる。
違和感を感じるというよりは、理来が隣に居ない事を改めて実感する。
理来は遠い存在なんだと。

気付くと教室の時計は20時を回っていた。部活も終わったようだ。

昔は毎日のように理来の部活が終わるのを待っていた。
それがいつの間にか週に1回程度になり、今では月に1.2回になった。

校門で理来が来るのを待つ。
ぞろぞろと練習を終えたサッカー部の人達が帰って行く。
理来も来た。他の部員達と一緒だ。
遠目で理来と目が合う。

「悪い。今日は先に帰るわ」

理来の声が聞こえた。
待っていなければ良かったと反省した。きっとこの後、みんなで今日の練習の事を話しながら帰る予定だったのだろう。

「凛、珍しい」

理来が目の前に来る。

「ごめんねえ、あ、いいよ!私また後で連絡するから!」
「凛の後で連絡するは嘘だから(笑)帰ろう」

私が理来を待つのをやめた理由の一つはこれだった。
部員の人達と話す機会も増えて私が待っている事が邪魔だと思ったのだ。

「にしても珍しいじゃん。侑は?」
「侑は今日はバイト!」
「侑がいないから暇だったって事か」
「違うよ〜久しぶりに理来と帰りたかったの!」
「待っててくれてありがとな」
「毎日こんな遅くまで連絡してるんだね。本当に理来凄いな〜」
「サッカー好きだからできるだけ」

絶対こう返ってくるって分かっていた。
理来はそういう人だから。あまりにも分かっていた返事が来たから顔がにやけてしまったのかな。理来に不思議そうな顔で見られた。

「凛どうした?」
「いや、理来ならそう言うだろうな〜って思ったまんまの返事が来たから笑っちゃった。理来の本気になったものに全力な所昔から変わらないね」
「俺何も変わってないからな〜凛と違って」
「え?私?私変わった?」
「変わったよ。遠くに感じるくらい…大人になった」

理来から思ってもみなかった言葉。
私が大人になった?遠くに感じる?
私が理来に思ってる気持ち。

「理来ーーーー」

理来の右腕にぎゅっと抱き着く。
私が昔からよくやっている事。理来の右腕に抱き着くと何でか安心する。不安な時とか怖い時とか、いつも理来の右腕にしがみついていた。

「なんだよ(笑)子供かよ(笑)」
「理来の右腕にこうやってぎゅっとすると落ち着くんだもん」
「凛、昔からそれ好きだよな」
「理来…私のセリフだよ。理来どんどん遠くなっていく」
「…こんなに近くにいるのに?」

私より随分身長が伸びた理来を見上げる。こんなに近くにいるのに?
近くにいる。それはそうだけど。

「もういい!」
「なんだよ(笑)」

理来の腕をずっと掴んでいた。
筋肉がついて少し太くなった腕を。