それからしばらく、碧と話して、私は部室に向かうことにした。
 
 もし、この気持ちが「恋」なら、私、どうすればいいんだろう。
 碧といると、ドキドキして、苦しくなって、安心する気持ち。
 もう、わかんないよ...。

 ガラガラッ。
 
 「遅れてすみませんでした!」
 
 あの事件のせいで、部活に行くの、遅れちゃった。
 碧、怒られてないかなぁ...。
 
 「あら、宇佐野さん。これからは気を付けてね。」
 
 「はい...。」
 
 あーあ。顧問の先生に言われちゃった。
 私があんなに泣いたから、いけないんだよね...。
 ごめんね、碧...。

 そして私は、いつも通りに自分の席に座り、この前から描いていた絵を描き始めた。
 
 今回は、うまくいきそうな気がする!
 でも、絵のテーマは「青春」。
 最初は、どんなのを描いたらいいのかわからなくて、櫻子姉ちゃんに「青春って例えばなんだろう?」って聞いたんだっけ。
 そしたら、櫻子姉ちゃんは「青春って言ったら、「恋」に決まってんじゃん!」
 なんて。

 「恋」がわからない私は、どうしたらいいのか超悩んでた。
 
 でも、今なら、少しわかるかもしれない。
 
 そう思うと、手が面白いように動いた。

 これなら、描ける!

 でも、この絵が描けてるってことは、私、碧のことが好きなのかなぁ...。
 
 「楓心ちゃん、絵、上手だね!」

 ふと、声のするほうへ振り返った。
 声の主は隣で絵を描いていた萩くんだった。

 「ありがとう。でも、最近やっと描ける気がしてきたんだ...。最近じゃもう遅いよね。」

 「そんなことない!前から、すっごい上手だったよ!」
 
 萩くんも結構女子から人気のある男の子。
 美術部なのに運動神経抜群とかなんとか。
 かわいい系男子って感じの男の子。くりくりっとした目。長いまつげ。いいなぁ。

 「ありがとう。萩くんに言われるとすっごくうれしいよ。」

 「な、なんだよ...。照れるじゃん。」

 萩くんはちょっと照れ屋なところもある。
 顔真っ赤。かわいいなぁ。
 
 「萩くんのは、どんな感じなの?絵。」

 萩くんの絵が気になって、覗き込んでみる。
 すると、
 
 「だ、だめっ!まだ見るな!!」

 恥ずかしそうにした萩くんが絵をすぐに隠してしまった。
 何か、恥ずかしいのかなぁ?萩くんも絵、うまいのに。

 「どうして??」

 「だ、だめ!出来上がったら見せてやるから...!」

 途中の絵は見せたくないのかな?本人が嫌なら、やめておこう。

 「わかった。楽しみにしてるね!」
 
 そう言うと、「う...うん!」とぎこちなく萩くんが言ってくれた。
 楽しみだなぁ。萩くんの絵。

 私たちはまた、絵を描き始めた。