ピュア・ラブ

私は、仕事終わりに駅前まで足を延ばした。
駅にはファッションビルがあり、デパ地下のような食品売り場もあった。
モモと私の初めてのクリスマスを迎える。私は、ケーキ。モモはまぐろの刺身を買って行こうと思っていた。
夕方の食品売り場は、人でごった返していた。ケーキを売る販売員はそれぞれ大きな声を出して、売り込みに精を出している。
一つのケーキを買うのが何だか悪い気がして、私は、イチゴのショートケーキと、チーズケーキを一つずつ買った。
鮮魚売り場に行くと、刺身の盛り合わせに、クリスマスのシールが貼ってあった。どこもクリスマス価格のようだ。
「一人前」と価格シールに書いてある刺身を一パック手に取り、レジに向かった。此処は、長蛇の列で、なかなか順番が回ってこなかった。
いい匂いのする売場で並んで待っていると、お腹が鳴ってしまった。夕食の時間なのだから仕方がない。
今日は、昨日作っておいた煮物の残りがある。それと味噌汁を作ればいい。どうせ、この刺身も、モモは食べきれないだろうし。
橘君と会う約束をしていたが、病院が閉まるのは夜遅い。それまでのんびりとモモと過そう。
あの日に買ったねずみのおもちゃは気に入って貰え、既にねずみはボロボロになってしまっている。
私の前に並んでいる人をふと見ると、リボンでラッピングされた袋が、見えた。
そうだ、世間はクリスマスプレゼントと言う物を贈るのだ。
特別、橘君に贈ることもない。でも、私は、橘君に危ない所を助けてもらっていた。
何をお礼に贈ったらいいのか全く分からない。私には経験がないからだ。
あの日の橘君を思い出してみる。
男の人は何が必要なのだろう。しまった、買い物をするなら、最後に刺身を買えばよかった。
そうだ、手を怪我してしまったのだ、きっと手袋をしていなかったに違いない。
あの寒さでしてないと、持っていないに決まっている。
何も思い浮かばない私は、そう思い込むことにした。
食品売り場を出て、エスカレーターで上にあがる。上の階は、ファッションフロアだ。メンズ売り場に行けば、何かしらあるだろう。
メンズ売り場に行くと、ここも女子で賑わっていた。私は、色々なショップで手袋を見たが、既にどれにしたらいいか分からなくなる。
でも最後に見たショップで、編み込み模様が素敵なニットの手袋を見つけた。裏地はフリースになっていて風も通さないだろう。