ピュア・ラブ

「どうぞ」
「お邪魔します」
「座って待っていて下さい」
「うん」

ばたばたと炬燵に電気を入れ、座布団を置いた。
客用はない。いつも自分が使っている物を移動した。
台所でお湯を沸かして、お茶の準備をする。
洗面所で薬箱を取り出すと、中身を確認する。

「大丈夫ね」

モモが来てからというもの、傷が絶えない私は、消毒薬とコットン、絆創膏や傷薬を用意していた。
電気ポットのお湯が沸いて、お茶を淹れると、お盆にそれを乗せた。
橘君のいる方を振り返ると、橘君はモモとじゃれていた。

「はい、お茶で悪いけど」
「ありがと」

明るい所でみる橘君の顔は、思っていたより酷かった。
顔だけではなく、手も擦り切れているようだ。
私も護身術でも身に着けていれば、こんな事にはならなかった。

「ごめんね、今、消毒するから」

橘君の隣に腰を下して、顔から消毒を始める。

「いてぇ……」
「もう少し……」

傷口からは、少し、白い泡のようなものが出て、それは痛そうだ。全て私が悪い。

「手も……」

そう言って差し出された手を見ると、もみ合って爪で引っ掻かれたのだろう、深く、皮がめくれていた。
私は、恐怖で、震えがきた。コットンに消毒薬を含ませ、ピンセットで傷口をトントンと叩くが、手の震えが止まらない。

「もう、大丈夫だから」

そう言うと、橘君は私を抱きしめた。
人の優しさと勇敢さにふれ、私は、初めて感じる何か温かな感情が湧きあがる。

「あの子たちを助けるための魔法の手なんだから、もっと大事にして。でも……助けてくれてありがとう」

私がそう言うと、橘君の抱きしめる腕に、さらに力が入った。

「もう、夜に出るんじゃない、分かった?」

私は、手を背中に回すと、ギュっと、服を握った。