「おい! 何をしている!!」
その声の主は、乗っていた自転車を放りだして、私を掴んでいた男に掴みかかった。
橘君だった。
「橘君!」
橘君は、私を背中に隠してくれた。橘君の背中に私はしがみつき、離れなかった。
男達とは、もめていたようだし、ゴンという鈍い音を聞いたが、殴られたのか、殴ったのか分からない。
「やってらんねえ」
捨て台詞をいい、私に絡んできた男たちは、その場を去っていった。
「黒川! 大丈夫? 怪我はない?」
橘君は、私の顔を両手で上に挙げ、全身の様子を見た。橘君は殴られたようで、頬の辺りが、あかくなっていた。
「橘君こそ、ごめんね、ごめんね」
「とにかく帰ろう、送っていくから」
「うん」
倒れた自転車をそれぞれ起こす。
「自転車に乗れる? 寒いから急ごう」
「うん」
橘君を先頭に、私は、後を付いて自転車を漕いだ。何度も何度も後ろを振り返っては、私の様子を窺ってくれていた。
橘君が通りかからなかったら、私は、どうしていただろう。そう思うと怖い。
橋を渡って、曲がる。
もう、アパートは見えた。私は、全く寒さも感じないほど、恐怖でいっぱいだった。
自転車置き場に自転車を止めると、橘君は、
「もう、大丈夫だね」
自転車から降りずにそう言った。きっと、帰るつもりなのだ。私は、そのまま帰って貰う事が出来なかった。
橘君の自転車の傍に行く。
「すぐに帰らないで」
違う、私は、そう言いたかったんじゃない。傷の手当をするから、寄って欲しいと言うつもりだった。でも、口からは、そんな言葉が出てしまっていた。
「うん、いいよ」
橘君は、自転車を降りて、スタンドを立てかけ、鍵を掛けた。
二階に向かう階段を昇る。
部屋の鍵を開けると、家の中からモモの鳴き声が聞こえた。
「モモが、お帰りって言ってるね」
「うん、いつも……」
モモをゲージに入れるのを止めていた。治療も何もかも終わり、問題ないからだ。入っては危険そうな場所は閉めていたが、モモは、お気に入りの出窓で陽が入っている間はそこに寝ていた。
レンタルで借りていたゲージは返却し、部屋が広くなった。
ドアを開け、壁のスイッチをつけると、玄関にモモが座って出迎えた。
その声の主は、乗っていた自転車を放りだして、私を掴んでいた男に掴みかかった。
橘君だった。
「橘君!」
橘君は、私を背中に隠してくれた。橘君の背中に私はしがみつき、離れなかった。
男達とは、もめていたようだし、ゴンという鈍い音を聞いたが、殴られたのか、殴ったのか分からない。
「やってらんねえ」
捨て台詞をいい、私に絡んできた男たちは、その場を去っていった。
「黒川! 大丈夫? 怪我はない?」
橘君は、私の顔を両手で上に挙げ、全身の様子を見た。橘君は殴られたようで、頬の辺りが、あかくなっていた。
「橘君こそ、ごめんね、ごめんね」
「とにかく帰ろう、送っていくから」
「うん」
倒れた自転車をそれぞれ起こす。
「自転車に乗れる? 寒いから急ごう」
「うん」
橘君を先頭に、私は、後を付いて自転車を漕いだ。何度も何度も後ろを振り返っては、私の様子を窺ってくれていた。
橘君が通りかからなかったら、私は、どうしていただろう。そう思うと怖い。
橋を渡って、曲がる。
もう、アパートは見えた。私は、全く寒さも感じないほど、恐怖でいっぱいだった。
自転車置き場に自転車を止めると、橘君は、
「もう、大丈夫だね」
自転車から降りずにそう言った。きっと、帰るつもりなのだ。私は、そのまま帰って貰う事が出来なかった。
橘君の自転車の傍に行く。
「すぐに帰らないで」
違う、私は、そう言いたかったんじゃない。傷の手当をするから、寄って欲しいと言うつもりだった。でも、口からは、そんな言葉が出てしまっていた。
「うん、いいよ」
橘君は、自転車を降りて、スタンドを立てかけ、鍵を掛けた。
二階に向かう階段を昇る。
部屋の鍵を開けると、家の中からモモの鳴き声が聞こえた。
「モモが、お帰りって言ってるね」
「うん、いつも……」
モモをゲージに入れるのを止めていた。治療も何もかも終わり、問題ないからだ。入っては危険そうな場所は閉めていたが、モモは、お気に入りの出窓で陽が入っている間はそこに寝ていた。
レンタルで借りていたゲージは返却し、部屋が広くなった。
ドアを開け、壁のスイッチをつけると、玄関にモモが座って出迎えた。



