ピュア・ラブ

「すみません、お待たせしました」

そう言って、タクシーに乗り、病院に向かった。
病院のドアを開くと、受付がいつものように笑顔で挨拶してくれた。
診察券を渡し、順番を待つ。
診察室は両方使っているようだ。二つある診察室のドアに、医師の名前のプレートが出ていた。
待っている患者は、いなかった。
診察室から、大きな犬を連れた女性が出てくると、入れ替わりで私が呼ばれた。
私は、お父さん先生だった。

「どれどれ」

そう言って、モモのカラーを外し、ネットの洋服を脱がす。
そこから先は見せない様にしているのか、奥の診察室に連れて行かれた。
じっとして待っていると、モモが抱かれて戻ってきた。

「うん、傷の具合もいいね。そうだな、来週の頭にでも抜糸をしよう。モモちゃんの様子を見て、このカラーは外してもいいですよ。洋服だけは、脱がしたりしない様に気をつけて下さいね」
「わかりました、お世話になりました。それと、昨日、モモをいれるのにお借りしたカゴです。ありがとうございました」
「ああ、そうだったね。わざわざありがとうね」
「いいえ、こちらこそ」

そう言って、診察が終わって、待合室に戻った。

「すみません、黒川ですが、昨日の手術代のお支払もまだなので、一緒にお願いします」
「わかりました」

すぐに計算も終わり、受付に呼ばれると、初めて話しかけられた。

「光星先生、あ、息子さんですけど、昨日、黒川さんが、モモちゃんをなかなか迎えに来られないので、心配なさっていましたよ? 何回も診察を抜け出して、表に様子を見に行ったりして」

そう言いながら、診察代金か書いてある診療明細書をカウンターに置いた。

「すみませんでした、体調を崩してしまいまして」

私は、その金額を見て、財布からお金を出して支払う。

「もう、よくなられました?」
「ええ、大分」

大人になってから、気遣いの言葉をかけられたことはない。
私は、声をかけられない様に壁を作っていた。
だけど、モモが来てからは、こうして、関わり合う人が出てきた。仕方のないことだ。
おつりを貰って、「お大事に」と言われ、私は、受付にあることを頼んだ。

「あの、これ、皆さんで召しあがって下さい。ご迷惑をお掛けしたので」

そう言って、菓子の入った袋を受付に差し出した。

「まあ、すみません。光星先生をお呼びしますよ、お待ちください」

座っていた受付の人は、慌てて立ち上がった。先生を呼びに行きそうだったので、慌てて止めた。

「あ、いいえ、診察中ですから、結構です。よろしくお伝えください」
「そうですか? わかりました、お伝えします」
「あ、それと、これは橘君に」

コンビニで買って来てもらった商品代金の入った封筒を渡す。

「はい、確かにお預かりします」

受付が受取り、お礼をして、私は、病院を出た。