ピュア・ラブ

「モモをお願いします」

早々と切り上げてしまえ。面倒はごめんだ。
名残惜しさはあったが、早くこの場を立ち去りたい。

「俺さ、昼は別の病院で研修しているんだ。夜は、ここ、実家なんだ」

そうか、「たちばな動物病院」実家だったのか。しかし、高校は此処からかなり離れている。さぞかし通学は大変だっただろう。

「高校は此処から遠いから、寮に入っていたんだ」

もしかして、この橘君は私の思っていることが読めるのだろうか。何だか怖い。

「獣医を目指していたんだけど、勉強がね。でも黒川さんを目標に3年のときは頑張ったんだ。もちろん追いつきはしなかったけど、特進クラスの中では、10番以内に入ったこともあったんだ。それから、大学で獣医学を勉強して、6年。やっと現場に出て、動物たちと向き合っているんだ」

やっぱり面倒だ。モモが早く良くなって退院したら、真剣に病院を探そう。

「黒川さん、動物も人間と一緒なんだ。子供の頃から体を知っている医師の所をかかりつけにして。症状に合わせて大学病院だって紹介状があれば診察してもらうこともできる。だから、この病院から他には移らないで欲しい。モモちゃんは俺がちゃんと治すから」

私が、返事をしなくても思っていることが分かっている。
そんな人は初めてだ。
面倒だからと言って、モモに辛い思いをさせたくない。モモの為と思って、私は頷いた。

「昼の診察は親父がしているから安心して」

橘君と会わないようにするためには、昼に来ればいいのだ。これからはそうしよう。

「昼じゃなく、俺がいる夜に来て欲しいけどね」

やっぱり読心術でも心得ているらしい。ここに来るときには、心を無にした状態でこなければいけない感じだ。