ピュア・ラブ

「ずっと抱っこしてしまうと、子猫は疲れますから」
「すみません」
「いいえ、心配ですもんね」

ずっと離さない私をやんわりと誘導する。
バスタオルでくるんでいるモモに顔を埋め、別れの挨拶をする。
そっとバスタオルごとゲージに戻すと、少しだけモモは体勢を変えて、寝てしまった。

「すみません、お願いします。また、明日も来ていいでしょうか」
「あ、毎週木曜日は休みなんですよ」
「そうですか、では、金曜日に。モモをよろしくお願いします」

年中無休な訳がない。休みだってあるのが当然だ。でも、会えないのはかなりつらい。
それは仕方がない。

「黒川さんだよね?」
「え?」
「昨日、顔を見てひょっとしたらと思ったんだけど、診察カードの名前を見て、やっぱりそうだって思ったんだよね」

急に親しみのある声のかけられ方をして、私はびっくりした。誰も知り合いのいない土地に越してきたつもりだった。それに知り合いなどこの世に存在しない私の名前を呼ぶ。この獣医は一体誰なのか。

「明峰高校特待生、1年1組、2年1組、3年1組、三年間特進クラスで、成績は常に学年1番。全国模試は100位以内の頭の良さ。大学はそのまま奨学生制度で進学。の黒川さんだよね」