橘君の書いてきたとおり、私は常に成績が優秀だった。性格に問題があるが頭は良かった。それしかなかったから仕方がない。ピアノやバレエも習って見たかった。
小学校の時、校内合唱祭でクラス毎に歌を披露したが、ピアノ伴奏をする生徒はみな、ピアノを習っている子だった。
ピアノを伴奏する子は綺麗なフリルのドレスを着て、お人形の用だった。とても羨ましく、一度でいいから着てみたかった。
『卒業式の日、どうしても最後に話をしたかったが、すぐに姿が消えてしまった君。もうどうすることも出来なかった』
卒業式の日、私は、家を出られることに浮足立っていた。卒業式が終わると、クラスに戻り、担任の最後の話しを聞く。担任にはとてもお世話になった。私は、帰るときに静かに頭を下げた。
クラスメイトに囲まれていた先生は、私を静かに見送ってくれた。
クラスメイトは、最後の別れを惜しみ、写真を撮り合ったり、サイン帳に寄せ書きをしたりしていた。
学校から帰ると、まとめてあった荷物を持った。私の荷物など微々たるものだ。手では運べない物は大学の寮に宅配便で送り、あとはボストンバッグに詰めていた。
家には当然だれもおらず、荷物を持つと、家の鍵を家の中に投げ、鍵を掛けずに家を出た。二度とこの家には戻らない、その意思表示だった。家の中に私の痕跡を残さない。そう決め、ありとあらゆる物を捨てた。
その時に集合ゴミ集積所にアルバムを捨てた。
何か思い立ったように、卒業した高校に行ってみようと思った。
ここからは二時間以上かかる。高校に行ってみれば、踏み出せるかもしれない。
電車を乗り継ぎ、とうとう高校に着いた。
高校は変わらずにあった。
週末の今日は、学校に来ている生徒は部活をしているか、受験生だろう。
中に入るには、警備を通さなくてはならない。なんの目的もないのに、入ることは難しい。
私のくつろぎの場所だった中庭は、中庭と言っても校舎の裏側にある。
学校の周りを歩き、校舎の裏手に回ると、中庭が見えた。
「あ、ベンチが変っているわ」
お弁当を食べ、昼寝をしていたベンチは、変っていた。あの時は木で出来ていたが、今はプラスチックのようなベンチが設置されていた。
一人で安心できる場所だと思っていたが、橘君はいつも見られていた。中庭から視線を上に移すと、ちょうどクラスの前廊下だった。
「あそこから見られていたのね」
上を見ず、下ばかりを見ていた私の、盲点だ。
高校生に戻り、自分に問いかけてみる。
友達は欲しかったのか。部活はやりたかったのか。そう思い出すと、たくさんの問いかけが出てきた。
でも、それは全て違うだった。
ただ、橘君のことが後悔として残っただけだった。
問いかけに答えていたら、違ったかもしれない。
でもそれは全て、仮定の話しだ。
なんだか、嫌な過去を思い出しそうで嫌だったけれど、以外とそうでもなかった。
中学生の時は、この先は暗い人生しかないと、悲観していた。
高校生の時は、自分のガリ勉が功を奏し、羨ましがられる存在となった。
周りは恋もして、それに悩み、泣き、笑う。
自分で自分を納得させるように「私は、関係ない。羨ましくもない、くだらない」と思い込ませていたのだ。
橘君に会うまで、それを認めたくなかっただけなのだ。
文化祭でキャーキャーいう女子達。その姿を、かわいいなと思う男子達。私はその近くでごみを処理していた。
「もし、戻れるならいつに戻りたい?」もしそう聞かれたら、こう答えるだろう。
「もう一度、高校生にもどれたらいいのに」
戻れたら、文化祭や体育祭、遠足も、修学旅行も参加しよう。
帰りに、制服姿で手を繋いでいる男女の生徒とすれ違った。制服は今でも押し入れにしまってある。
「制服デートがしたかったかも」
そんな私らしくないことを思ってしまった。
『そんな君にどうしても伝えたいことがある』
そのはがきを最後に橘君からの便りは途絶えた。
小学校の時、校内合唱祭でクラス毎に歌を披露したが、ピアノ伴奏をする生徒はみな、ピアノを習っている子だった。
ピアノを伴奏する子は綺麗なフリルのドレスを着て、お人形の用だった。とても羨ましく、一度でいいから着てみたかった。
『卒業式の日、どうしても最後に話をしたかったが、すぐに姿が消えてしまった君。もうどうすることも出来なかった』
卒業式の日、私は、家を出られることに浮足立っていた。卒業式が終わると、クラスに戻り、担任の最後の話しを聞く。担任にはとてもお世話になった。私は、帰るときに静かに頭を下げた。
クラスメイトに囲まれていた先生は、私を静かに見送ってくれた。
クラスメイトは、最後の別れを惜しみ、写真を撮り合ったり、サイン帳に寄せ書きをしたりしていた。
学校から帰ると、まとめてあった荷物を持った。私の荷物など微々たるものだ。手では運べない物は大学の寮に宅配便で送り、あとはボストンバッグに詰めていた。
家には当然だれもおらず、荷物を持つと、家の鍵を家の中に投げ、鍵を掛けずに家を出た。二度とこの家には戻らない、その意思表示だった。家の中に私の痕跡を残さない。そう決め、ありとあらゆる物を捨てた。
その時に集合ゴミ集積所にアルバムを捨てた。
何か思い立ったように、卒業した高校に行ってみようと思った。
ここからは二時間以上かかる。高校に行ってみれば、踏み出せるかもしれない。
電車を乗り継ぎ、とうとう高校に着いた。
高校は変わらずにあった。
週末の今日は、学校に来ている生徒は部活をしているか、受験生だろう。
中に入るには、警備を通さなくてはならない。なんの目的もないのに、入ることは難しい。
私のくつろぎの場所だった中庭は、中庭と言っても校舎の裏側にある。
学校の周りを歩き、校舎の裏手に回ると、中庭が見えた。
「あ、ベンチが変っているわ」
お弁当を食べ、昼寝をしていたベンチは、変っていた。あの時は木で出来ていたが、今はプラスチックのようなベンチが設置されていた。
一人で安心できる場所だと思っていたが、橘君はいつも見られていた。中庭から視線を上に移すと、ちょうどクラスの前廊下だった。
「あそこから見られていたのね」
上を見ず、下ばかりを見ていた私の、盲点だ。
高校生に戻り、自分に問いかけてみる。
友達は欲しかったのか。部活はやりたかったのか。そう思い出すと、たくさんの問いかけが出てきた。
でも、それは全て違うだった。
ただ、橘君のことが後悔として残っただけだった。
問いかけに答えていたら、違ったかもしれない。
でもそれは全て、仮定の話しだ。
なんだか、嫌な過去を思い出しそうで嫌だったけれど、以外とそうでもなかった。
中学生の時は、この先は暗い人生しかないと、悲観していた。
高校生の時は、自分のガリ勉が功を奏し、羨ましがられる存在となった。
周りは恋もして、それに悩み、泣き、笑う。
自分で自分を納得させるように「私は、関係ない。羨ましくもない、くだらない」と思い込ませていたのだ。
橘君に会うまで、それを認めたくなかっただけなのだ。
文化祭でキャーキャーいう女子達。その姿を、かわいいなと思う男子達。私はその近くでごみを処理していた。
「もし、戻れるならいつに戻りたい?」もしそう聞かれたら、こう答えるだろう。
「もう一度、高校生にもどれたらいいのに」
戻れたら、文化祭や体育祭、遠足も、修学旅行も参加しよう。
帰りに、制服姿で手を繋いでいる男女の生徒とすれ違った。制服は今でも押し入れにしまってある。
「制服デートがしたかったかも」
そんな私らしくないことを思ってしまった。
『そんな君にどうしても伝えたいことがある』
そのはがきを最後に橘君からの便りは途絶えた。



