ピュア・ラブ

『昼休み、いつも裏庭にいて昼寝をしていた君。風邪をひかないかと、いつも心配だった』

お正月に、うたたねをした私に、「そんな所で寝ていると風邪をひくよ」と、声をかけてくれた。その時、高校の裏庭で同じような声を聞いた。それを聞くと、橘君が声をかけてくれたのだと知った。
その時は、びっくりしてしまい、慌てて走って行ってしまった記憶がある。
遠巻きに私が観察されているのはなんとなく分かっていた。特に女子の視線は感じていた。
別に制服が汚れている訳でもないし、穴のあいたソックスを履いている訳でも、風呂に入っていないわけでもなかった。
橘君曰く、一人でいることの方が、逆に興味が湧くものだ。と教わった。
初めての長期休暇が終わって、職場に行くと、すぐに正月休みになった。
今年の年末も去年と変わらず大掃除をして、おせちとお雑煮を作った。変わったのは、静かになった私の生活と、橘君がいないことだ。
あれから母親は本当に来なくなり、音沙汰もない。まだ内心いつくるのかと気が気じゃなかったが、顔を出さないと手紙に書いてきたことは本当だったようだ。
お金の無心がなくなり、私の生活も贅沢が出来る様になった。

「モモ、少し寒いけれど、我慢してね」

窓を全開にして掃除をする。
寒さの苦手な私には酷な窓ふき掃除だ。
早く終わらせないと、手の感覚がなくなってしまう。
そうは言っても昼の暖かな時間を狙っての掃除だ。体全体を動かして窓ふきすれば、自然と体は温まる。
以前はくそまじめに雑巾で窓を拭いていたが、最近では便利グッズが沢山ある。ホームセンターに行き、そう言った道具を買い込んだ。

「橘君は、お正月もなく働くのかしら」

動物園が休園だったとしても、動物は生きている。世話をしなくては死んでしまう。
期待はよそう。期待すると悲しくなる。
窓ふきの手を休めてボーっと外をみていたら、モモがすり寄ってきた。

「モモ、今年もありがとう」

そう言ってモモの頭を撫でた。