華麗なる人生に暗雲があったりなかったり





 とりあえず、風呂に入ってこたつで寛いでいた。


 俺は仁の婚約者ととりとめもなく話をしていた。


 仁の婚約者とは思えないほど良い人で、男を見る目がないな、そんなことを思う。


 仁の不始末を、それは申し訳なさそうに謝っていた。


 こんな男と結婚は身の破滅ですよ、そう言いたかったがやめておく。


 佳苗と呼んで構わないというから、そう呼ぶことにした。


 もちろん、仁は、



「人の婚約者を呼び捨てにするな」



 と俺を睨みつけた。


 なおさら、名前で呼びたくなるに決まっている。


 そうやって、話をしている最中でも水野が気になった。


 きっと、他の連中も。


 だが、一人にしておくべきだとわかっていたから部屋を訪ねることはしなかった。


 展開が動き出したのは、日付が変わる少し前だった。


 誰かが階段をすごい勢いで下りてきた。


 ここにいないのは水野と佳苗だけ。


 おじさんが障子を開けたと同時に玄関の扉が閉まる音がした。


 そして、また階段をすごい勢いで下りてきた。


 佳苗だった。


 風呂に入る身支度をしに行ったのに何故かコートを持っていた。



「先にお風呂どうぞ。小春さんと散歩してきます!」



 弾丸のように飛び出していった。


 とろい弾丸だったが。


 はぁ?


 水野と散歩?


 あいつは佳苗を嫌っている。


 仁の婚約者だから。


 それは佳苗もわかっているはず、一体何を考えているのかわからない。


 ここの女性陣は俺には理解不能だ。


 おじさんも当惑していたが、おばさんと仁は素知らぬ顔。



「おい。マズくないか?」



 おじさんが口火を切った。



「平気よ。佳苗さんがいるんだから」



「だから、マズいんだろっ!」



 おばさんは鬱陶しそうに手を振った。