「お前に指図される言われはない」



「なぁ?小春からお前の話聞いてんだぜ?」



 こたつから出そうとした足を止める。



「話を聞いただけで、お前が小春に惚れてるのがわかった」



「だから何だって言うんだ?」



 冷ややかに返す。



「小春は気づいてない。何でかわかるか?お前が眼中にないからだよ。男として見られてないんだよ」



 拳を握ったが、必死に堪える。


 ここで殴ったら負けだ。



「偽彼氏になって、他の男をけん制して、ただの友達から少しでも進展あったか?ないだろ?」



 あいつは、そんなことまで話していたのか。


 本当に意識されてないな。


 本命の男に偽彼氏の話題を出すなんて。



「まぁ。お前は悪い虫だが他の虫を追っ払ってくれたことには感謝してる。だが、お前も所詮虫だ。とびっきり、しつこい虫。今後、小春にちょっかいかけるな」



 握った拳に爪が食い込む。


 こいつの何もかもが許せない。



「婚約者がいるのに、何故水野に構う?水野に会わずに帰れ」



 俺が忌々しげに言うと、仁は手を軽く振った。



「それは無理だ。小春は俺に会いに来る。今度会った時には小春と仲直りするって決めてたから、俺の課題はそこだ。お前なんぞの相手をしている暇はない」



 笑いかけてもらう?


 仁と会うことをあんなに恐れている水野に?


 婚約者と挨拶に来た仁に、水野が笑いかけるとでも思ってるのか?



「水野はお前が来ると聞いて、青ざめていたぞ」



 それでも、水野に笑顔を取り戻させるというのか?



「どんなことをしても元通りにしてみせる。何に変えてもな」



 目を閉じ、仁は呟いた。


 もう口を出すことはしなかった。


 どちらにしろ水野の恋は終わる。


 どんな終わり方をするのだろうか。


 水野ができるだけ傷ついて欲しくない。


 傷つくことは確実だから、せめてその傷が浅くあって欲しい。


 こんな性悪な男でも、水野のことは大事らしいから。


 それならば、こいつに賭けてみるしかない。