「水野の気持ち知っていて、今まで黙っていたんですか?」



 水野の心境を考えると、胸が痛んだ。


 これは、あまりにひどい。



「怒るなんて意外だわ。俊君にしたら、小春にとどめを刺してもらったほうが良いんじゃないの?」



 俺の汚い部分も見透かされている?


 動揺をおくびも出さずに、おばさんを見る。



「水野が泣く姿は見たくありません。知っているとは思いますけど、かなり不細工です。あの顔を見たら夢にまで出てうなされます」



 おばさんはおかしそうに口を綻ばせた。



「仁君との違いはそこね。仁君は小春は泣いてても可愛い、らしいわよ」



「おばさん。話を交ぜ返さないでくれません?」



「先にそうしたのは俊君よ。これから夕食の準備するから送るのは早くても明日の朝」



 それを聞いて、ほっと肩を撫で下ろす。


 もうこれ以上あいつに傷ついて欲しくなかった。



「それで十分です。おばさんが本当の鬼でなくて安心しました」



「そんな鬼畜なことはしないわ。ところで、小春は使えないし、お夕飯の準備手伝ってくれるわよね?」



 おばさんはにっこり微笑んだ。


 この微笑には有無言わせない効力がある。



「水野の様子を見て来たら、すぐに手伝います」



 そう言って、階段を上がる。


 水野の部屋のドアは開いたままだった。


 声をかけたが返答はなく、薄闇の中、必死に荷物をカバンに押し込んでいる。


 その背中がやけに小さく見えた。


 手首を掴み、水野の顔を見ると恐怖で歪んでいた。


 十分傷ついたんだ、少しでも傷つくことがないように俺がついていないと。


 守ってやらないと。


 布団をかけてやり、その上から背中をさする。


 何とか落ち着こうと水野も必死だ。


 大丈夫だ。


 そう何度も繰り返す。


 震えが止まるようにと。


 少しでも不安を拭い去ってやりたかった。


 そんな気持ちを無視するように、玄関のドアが開く音がした。


 おじさんが帰って来たのかと思った。


 だが、水野が握り締めていた手を力なく下ろして、仁の名を呟いた。


 まさか。


 明日の夜なはずだ。


 だが一階からおばさんの浮かれた声が聞こえてきた。


 仁が来たのだ。


 婚約者を連れて。


 俺にはどうしてやることもできなかった。