「あんた、小春に嫌われたみたいね」
からかうような視線を寄こした。
上原め、他人事だと思って。
リフトから突き落とすか。
「連れて来れただけ成果はある」
前に乗っているカップルの背中を眺めたまま、そっけなく言った。
「まぁ。私と小夜には八つ当たりしないでよ。広也にして」
それだけ言うと、目を輝かせた。
滑りたくてうずうずしているようだ。
上原はさすがに上手かった。
上級者コースをなんなく滑る。
こいつとは良く一緒にボーリングやバッティングセンターに行くから、運動能力の高さは承知している。
だが、思わず感心してしまう。
そして思った。
やっぱり、上原や瀬戸みたいなのと付き合うのが良い。
水野みたいな無神経で馬鹿で仁べったりなやつに、心を砕くなんてアホらしい。
あの二人とは気が合うし、趣味も合う。
一緒に出掛けることもそう珍しくない。
簡単に誘えるし、気軽に応じる。
だけど水野は誘えない。
道場に一緒に通っているくらいで。
これは共通の趣味ではあるが、休日に二人で出掛けたことなんてない。
誘う理由がない。
ため息を吐く。
女子大生グループに包囲された。
逃げようとする上原のフードをしっかり掴む。
「ちょ、ちょっと、離しなさいよ!」
上原が暴れるから腕を取る。
やっぱり腕を振り上げ、暴れたが、一人だけで逃げることは許さない。
結局、水野のことを意識しているから誘えないで、タイミングを逃しているのだ。
上原や瀬戸は友人として気軽に誘えるが水野は違う。
やっぱり、あいつは特別なんだ。
せめて、もう少しマシな女に惚れたかった。
よりによって、あんな性質の悪い女に。
暴れまわる上原が天使に見えた。
かなりの重症だ。