「馬鹿になるなり、死ぬなり好きにすれば良い。ただな、その鬱陶しい面を明日はするな。反吐が出る」
また、同じことを繰り返す。
汚いものを吐き捨てたのに、余計に気分が悪くなる。
反吐が出る。
俺にも。
こいつにも。
これ以上いたって、俺は同じことを繰り返す。
せめて、こいつに嫌われることはしたくない。
だから席を立った。
「あのね。馬鹿でもそれなりにわかってることもあるんだよ?」
黙っていた水野が口を開いた。
こんなことばかり言う、俺に早く出て行って欲しいだろうに。
「榊田君が、そう厳しいこと言うのは私のことを心配してくれてるからだってことぐらいわかってる」
わかってる?
何がわかってるだ。
怒鳴って、掴みかかりたい衝動にかられる。
何がわかってるって言うんだ?
こいつの無神経さに腹の中で、何かが蠢く。
気分が一層悪くなる。
穢れのないその物言いが。
善意だと思い込んでいるその態度が。
全部、鬱陶しい。
ぶち壊したくなる。
俺は、お前が泣くのを願ってるんだ。
仁に振られて、泣き喚けばいい。
信じるんじゃなかった。
そう叫んで。
仁を恨んで、憎んで泣けばいい。
お前のことなんか、心配してない。
お前が拠りどころを失えばいい。
仁のことを嫌えばいい。
それが一番の俺の望みだ。
奥歯を、ぎりっと噛み締めた。
嫌な音が口内からする。
こいつといたくない。
一度も振り向くことをせず、逃げるように玄関のドアを開けた。
来るんじゃなかった。
心底思った。

