世の中、アメとムチ。


 恐怖だけではいけない。


 そもそも、あの写真が姉貴だと誰もが信じ込んだのは、水野と広也の発言だけが理由ではない。


 俺が日頃から、水野を大切にしているからだ。


 俺が浮気するはずないと、周りが思っていることが功を奏した。


 だからこそ、こうも円満、元通り。


 周りの影響力というものは無視できない。


 なら水野を攻めるだけではなく、外堀も埋めていかなくてはならないと考えた。


 俺は、水野の友人には優しく接するようにした。


 水野の友人だから、俺にちょっかいをかけてくるわけでもないから容易いことだ。


 無愛想、それを人はクールと呼ぶが、そんな俺が少しでも優しくすれば、それで好青年になる。


 これも効果は絶大。



「榊田君のことね、すごい褒めてたの。優しい、って!」



 水野は嬉しそうに話した。


 何とも、外堀を埋める作業は容易いことだ。


 暴力か愛想笑いで片付くなんて。


 水野もこうも喜んでいるし、後は、こいつを振り向かせるだけだ。


 それが非常に難しいことなんだが。


 もう俺は開き直っていた。


 一生、俺の思いは報われず、彼女なしで生きていくかもしれないと。


 だが、俺が彼女なしならば、水野も当然、彼氏なしだ。


 二人で、恋人なしの人生を謳歌するのも悪くはない。


 そんな、ヤケクソ染みたことを考え、開き直ったのだ。


 そして、水野の中の仁の存在を認め、自分はまた別の特別な存在であれば良いと考えるようになった。


 だから、オレンジジュースを家に置くようになった。


 今までは水野が好きなことを知っていても置くことはしなかった。


 何故なら、仁だ。


 オレンジは仁の色らしい。


 仁を思い浮かべるとオレンジ。


 仁との思い出もオレンジ。


 オレンジ大好き。


 オレンジジュース大好き。


 仁はもっともっと…………以下省略、大好き。


 それが水野だ。