華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




 ドアを思いっきり叩くと、水野がドアを開けた。


 とりあえず、生きていた。


 ほっとしたのも束の間。

 水野の顔はひどかった。


 そりゃ、かなりのものだった。


 百年の恋も冷めるような顔だった。


 普段、見ている水野からはかけ離れていた。


 さすがに、驚いた。


 仮病だと本人は言った。


 それでこの悲惨な顔ということは。


 仁だ。


 仁しかあり得ない。


 その思考に至るまで、数秒しか要さなかった。


 水野の仁大好き病は承知している。


 盛大に心の中でため息を吐いた。


 どうして、何でも仁なんだ。


 百年の恋ではなかったらしく俺は苦々しく思った。









 水野に話すように促す。


 こいつは、嫌なことや愚痴を俺にもめったに話すことはない。


 こっちから聞かない限りは絶対言わない。


 嬉しいことは、ぺらぺら話すのに、その逆になると口を閉ざす。


 お盆以降のことだって、敵の状況が知りたく俺から聞いたくらいだ。


 仁以外のことでも同じだ。


 嫌なことがあっても、こっちが唖然とするくらい平気な顔をする。


 いつも通りに笑っている。

 
 そんな水野をここまで落ち込ませるのは仁だけ。


 こいつは仁が好きで。


 仁しか見ていない。


 仁のために大人になろうと必死だ。