「彼氏!?んなわけないだろ!?おいっ!小春、こいつお前の彼氏を名乗ってるぞ!?」



 俺を指差し、水野に向かって喚く。



「う~ぞういうことになってるかも~」



 さっきより悪化したようで、広也が代わりに背中を擦っている。



「小春!!自棄起こすな!好きでもない男と付き合ったって仁兄は戻って来ないんだぞ!?」



 好きでもない男?


 本当のこととは言え、こんなガキ大将もどきにまで馬鹿にされるとは。



「う~がんたうるさぃ~あとで、説明するがらぁ~う~吐くぅ~」



 その言葉に反応し、慌てて駆け寄ろうとする男の手を、ひねり上げる。


 野太い悲鳴が上がる。


 俺の逆鱗に触れたこいつが悪い。


 水野はコンビニの袋に、嘔吐した。



「小春ちゃん!?大丈夫!?」



 広也の慌てる声と男の悲鳴と水野の唸り声が夜の路地裏に響いた。















 口元をハンカチで拭いながら水野が俺を見上げる。


 どれだけ馬鹿になれば気が済むんだ。


 本当にありえない女だ。


 おぶってもらい、挙句の果てに男の家に泊めてもらう?


 危機管理能力がないのレベルではない。


 頭に異常があるとしか思えない。


 水野は俺の冷ややかな視線に、ため息を一つこぼし、男を見上げた。



「寛太。大丈夫だから、帰っで。あとで、連絡ずるわ」



「おい。大丈夫なのかよ?本当に!?」



 俺と広也を胡散臭い目で見る。



「彼たちどは家が近いの。だから、ね?」



 寛太。


 これは下の名前だよな?


 下の名前を呼び合うってことは、かなり親しい間柄。


 加えて、仁を知っていることから同郷と見て間違いない。


 俺が睨みつけると睨み返してくるが、結局、帰っていった。



「何かあったら電話しろよ。自棄は起こすな。仁兄を悲しませるようなことするなよ」



 と、最後まで言いながら。


 そいつが見えなくなってから、水野の腕を引っ張り、乱暴に立たせる。