玄関口で靴を履いたところで、水野に腕を掴まれる。



「待って、榊田君!橘君も悪気があったわけじゃないのよ。ね?機嫌直して一緒に飲もう」



 吐き気がする。


 気持ち悪い。



「……お前といると、反吐が出る。離せ」



 こいつの顔を見たら、本当に吐いてしまいそうだ。


 胃がむかむかする。


 たまらなく気持ち悪い。


 水野を見ていると反吐が出る。


 乱暴に腕を振り払った拍子に、水野の顔がちらりと見えた。


 ひどく傷ついたような顔をしていた。


 その後ろから広也が現れ、水野の肩を抱く。



「ちょっと、榊田君!!」



「小春ちゃん。こんなやつほっといて一緒に飲もう。ね?」



 そう言いながらも、広也は俺を見ていて。


 その目は冷め切っていた。


 俺は二人に背を向けて歩き出す。


 水野が、榊田君、ともう一度呼んだのが最後に聞こえたけど構わず。
















 アパートに帰るなり、手を口の中に思いっきり突っ込む。


 一瞬の苦しさとともに嘔吐する。


 それでも、気分は良くならない。


 なるわけがない。


 最悪だ。


 水野に庇われるなんて最悪だ。


 よりによって、水野に庇われるなんて。


 あいつに庇われるなんて、考えられる限り最悪な出来事。


 結局、俺は水野にとってそれだけの存在だったのだ。


 蛇口を思いっきりひねり頭から水をかぶった。


 あいつは、どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むのか。


 榊田君、とあいつが俺を呼ぶ声が頭に響く。


 何かの呪縛のように感じた。