そんな俺の暴走を止めたのは、水野が小さく息を漏らしたからだ。


 息が続かなくなったのだろう。


 その吐息がとても甘く聞こえたが、そんなことはともかく。


 俺は、ばっと身を引いた。


 汗がどっと噴き出す。


 身体中の水分が抜けてミイラになるのではないかというほど。


 ミイラになるのが先か、それとも心臓が破裂するのが先か、良い勝負だ。


 自分の仕出かしたことに俺は慌てふためいていた。


 赤くなれば良いのか、それとも顔面蒼白になれば良いのか。


 とにかく、身体中の血液が暴走し、異様なほど熱かった。


 人体発火の危険性さえある。


 心中、身体中、嵐が吹き荒れているというのに、良いのか悪いのか。


 外見上、いつもと変わりがないポーカーフェイス。


 動揺が外には出ない性質なのだ。



「悪い」



 何という誠意のない謝罪だ。


 そうは思ったが言葉が出てこなかった。


 マズい。


 何か言い訳をしなければ。


 これは絶対にいかがわしいことに入る。


 絶対確実に。


 殴られて、怒鳴られるのは我慢しよう。


 しかし、これで一緒に過ごす時間が終わることだけは避けなければ。


 それなのに、動揺している俺の頭はまったく働かない。


 こんな時に精一杯働いて欲しいのに役立たずだ。


 水野が起き上がった。


 殴られる。


 でもその前にしっかり謝らなければ。


 そう思って、そろそろと水野に顔を向けた。
















 虚を突かれた。


 水野は潤んだ目を細め、優しく笑っていたのだ。


 俺を見つめて。


 それは、これだけで心を奪われてしまうほど美しい微笑で。


 慌てふためいていた俺の心を一瞬にして無にした。
































 そして、こいつの微笑をじっと見つめながらも予感がした。


 俺はこいつに振り回され続けるのだろう。


 これからずっと。


 死ぬまで俺の世界はこいつが中心なんだろう。


 そんな予感がした。