道場に水野の姿がなかった。
今日はいつも通り、道場から一緒に帰って水野の家で夕飯を食べる約束だった。
水野は三限までだから、道場の時間までに夕食の仕度をして、俺は五限の授業が終わったら道場に行く。
だが、水野は現れなかった。
道場に入る前に携帯を見たが、連絡はなし。
何かあったのかと思い、道場が終わったら、すぐに水野の家に向かった。
白い息を吐き出しながら、アパートの階段を駆け上がり、インターホンを押す。
すると、すぐに鍵は開けられ、笑顔の水野に出迎えられた。
一気に肩の力が抜ける。
「お前な。何があったか知らんが、連絡ぐらい寄越せ」
「え?美玖ちゃんが連絡したから平気だって」
水野は首を傾げ、俺は目を見開いた。
今、美玖って言わなかったか?
まさか、そんなわけ……
その瞬間、何かがキッチンから奥の部屋に逃げ込んだ。
俺は靴を脱ぎ、一直線に部屋へ続くドアを開けた。
そこには、わざとらしく笑った、俺の妹がいた。
「お前が、何で水野の家にいる?」
立ったまま、美玖を見下ろす。
「小春ちゃんに会いに来たの。まさかお兄ちゃんと会うとは思わなかった。一緒にご飯食べてるんだってね」
くるくる髪を指で巻きながら、バツが悪そうに言った。
俺に内緒で会うつもりだったのか?
「帰れ。今すぐにだ」
俺は美玖の腕を引っ張り上げ、こたつから引きずり出した。
「嫌だ!痛い!小春ちゃんが良いって言ったわ!」
無駄な抵抗をする美玖には構わず、外に放り投げようとした。
しかし、
「何?どうしたの?」
水野が包丁を置いて、こちらを見た。
「小春ちゃん!お兄ちゃんが、帰れって。痛いから、離してよ!」
「榊田君!痛がってるでしょ!何で、帰れなんてこと言うのよ?せっかく榊田君に会いに来てくれたのに」
お前に会いに来たんだ。
興味本位の野次馬根性でな。