だから風邪を引かないようにというか、俺の精神衛生上のためタオルケットをかけてやる。
「お前は本当にのん気だな」
こいつは丸まって眠るからかなりコンパクトで場所を取らない。
水野を見下ろし、囁くように言ってみるが、当然気づかない。
ふにふにした頬に触ってみたくなるが、いかがわしいことをしたら、この貴重な時間が終わる。
頬に触るだけならいかがわしいことではないような気がするが、この箱入り娘の基準は厳しそうだ。
だから、俺はボールペンの頭で頬を突っついて腹いせをしている。
う~う~
そんな間抜けな唸り声を聞いて満足し、俺は本を手に取るのだ。
周りには俺と水野は相変わらず、付き合ってることになってるし。
本当に呆れるほど仲が良いな、なんて言われたりする。
悪い気はしない。
どうせ、本当の彼女になるし。
今ではそう思える。
ようやく、茹だるような暑さもなくなり秋の季節になった頃には大きな変化もあった。
水野が頬を染めてくれるようになったのだ。
これが、かなり可愛い。
思わず抱きしめたくなるくらいには。
でも、やっぱり申し訳なさそうに振られる。
これは相変わらずだ。
でも、俺に対して頬を染めて、はにかんだ笑顔を見せてくれる。
これだけで、気分が良い。
俺と水野の距離は着実に近づいている。
そんな変化を日々感じながら水野と過ごし、さらなる変化を感じたのは十二月。
姉貴が言った、半年はとっくに過ぎた。
電話がうるさいが、出ないわけにもいかず、いつもしぶしぶ応対する。
そんな俺を見て、姉気と仲良しだと勘違いする水野の目は節穴だ。
姉貴が押しかけて来ないように、釘を刺すのに毎回苦労している。
だが、仕事が忙しい身で土日さえ休みが取れないらしいから多少は安心もしていた。
とにかく、俺がマークしていたのは姉貴だけ。
要注意人物がもう一人いることに、俺は愚かにもそいつが現れるまで忘れていた。