「護衛ご苦労。帰って良いぞ」



 第一声から性悪だった。



「もう!仁くん。榊田君に意地悪しないでよ」



 仁は水野に目を向けるとそれはそれは優しく微笑んだ。



「小春良く来たな。暑かっただろ?」



 俺は靴を脱ぐと、水野と仁が話している隙に中に入った。



「お邪魔します」



 心のこもっていない挨拶をキッチンにいる佳苗にする。


 リビングには冷房が効いていて心地良かった。


 革張りのソファーが冷えてて気持ち良く、そのまま仰向けに転がる。


 すると、ぱたぱたスリッパ音を響かせながら佳苗が顔を出した。



「いらっしゃい!ご馳走作るから楽しみにしててね」



「まぁ。水野と一緒だから安心して任せられるな」



 目を閉じたままそう言うと、鼻を摘まれた。



「もう!少しは上達したんだから」



「佳苗さん、こんにちは」



 ようやく、入って来たか。



「こんにちは。小春さんの言った材料全て買い揃えて置きました」



 とかなんとか話しながら二人の声は遠ざかっていく。


 すると、残るは。


 ちらりと片目を開ける。



「人の家のソファーを占領か」



「占領じゃない。向こうが空いてるだろ」



 目で、向かいのソファーを指す。













 佳苗の悲鳴と水野の慌てる声がキッチンからひっきりなしに聞こえる。


 何だか、不安になってきた。


 だが、今は手が離せない。



「あのDVDは何だ?」



 碁石を盤に置きながら、仁に聞く。


 仁は唸りながら碁石をじゃらじゃら手で弄ぶ。



「ああ。佳苗のだ」



 俺の目線の先にあるテレビのボードにはいくつかのDVDが置かれていた。



「悪徳商法に引っかかっているんじゃないのか?」



「やっぱり、お前もそう思うか」



 パチンと黒石を置いた。


 これは予想外のところに置かれた。

 俺と仁は碁をやっていた。


 佳苗の祖父の形見だとか言う碁盤は年季が入っていて趣がある。


 だが、そんな風流は今の俺にはどうでもいい。