「ずっと、水野がお前を思いながら過ごしていけば良いとでも思ってるのか?」



「勘違いするな。気に食わないが、小春が幸せになれるならお前でも構わないし、本気で邪魔するつもりもなかった。今までは」



 一端話をやめ、俺をまっすぐ見据えた。



「だが、お前に小春はもったいないことに確信が持てた。だから手を引け」



「指図は受けないって言ったはずだ」



 こいつとの飯は本当に不味い。


 食えたもんじゃない。



「お前なら女はいくらでも寄ってくる。相当、遊んでただろ?小春をこれ以上傷つける前に、男馴れしてる女探せ。お前にはそういう女がぴったりだ」



 仁はメニュー表をペラペラめくりながら言った。


 俺はふと佳苗の言葉を思い出す。



「お前は俺が水野と付き合うのが嫌で邪魔してるってことは、いずれ付き合うことになるって思ってるからだろ?それなのに俺が手を引くわけないだろ。馬鹿が」



 仁はメニュー表から反射的に顔を上げ、呆気に取られた顔を覗かせた。



「お、お前、まさか、小春を口説き落とせるって本気で思ってるのか?大層な自信家だな!」



「ああ。思ってる」



 俺はいつもの調子で返す。


 チャンスを水野から与えられたんだ。


 それを生かせれば間違いなく。



「俺は小春に邪な気持ちを持って近づく男が気に食わないんだ。お前が小春を落とせるなんて思ってない」



 仁はテーブルに肘を付き、額を押さえた。



「佳苗がそう言ったんだろ?残念ながら、それは違うぞ」



 笑いが止まらないようで、仁の声が震えていた。



 こんなやつに、馬鹿にされていると思うと腸が煮えくり返る。



「小春は優しいからお前を粗雑に扱うことはできない。気のない男に言い寄られてる小春の苦労を考えれば、お前を排除したい俺の気持ちわかってくれるか?」



 苛立ちを紛れさすため、酒をぐいっ、とあおる。