同年代のやつらと行く居酒屋とは違い、落ち着いたところに入った。


 こうなったら、たくさん食べて、仁の財布を空にしてやると心に決める。


 酒が来て、つまみが来て、俺は盛大に食べた。


 仁が睨みつけるがお構いなし。


 こいつが誘ったんだ。


 仁は話があると言ったわりに切り出さない。


 無言の食卓だったというわけでもない。


 俺と仁は話さないが、仁はナンパしてきたOLに笑顔で対応している。


 こいつといると本当にロクなことがない。


 こんな連中は相手にしないのが一番なのに。


 俺がとっとと、女を追い払う。



「佳苗にとうとう逃げられたか」



「呼び捨てにすんな。実家に帰ってるだけだ」



「やっぱり逃げられたのか。見切りをつけるのが遅かったが賢明な判断だ」



 俺はしたり顔で頷いた。



「お前と違って俺たちは順調さ。だから、こうして振られたお前を慰めてやってる」



 どこが慰めてる?



「水野が話したのか?」



 あいつは仁に何でも話す。



「いや。小春は俺に恋愛相談なんて自分から持ち出したりしない」



 少し、困ったように眉を寄せた。


 水野のこととなると、この顔だ。



「まぁ。お前が小春に告白したのは予想がついてたから、こっちから切り出したら、話してくれたけどな」



 仁は煙草に火を点けた。



「お前には関係のない話だ」



「お待たせしました」



 話に横槍が入る。


 店員は皿を置き、何やらカードを俺の前にすっと出してきたから、顔を上げると、同年代の女店員が男受けするような笑みを向けてきた。


 女が立ち去ってから、カードを摘む。


 割引券かと少し期待したが電話番号とアドレスだった。


 くだらない。


 切り刻んで、仁の灰皿に放り込む。


 ついでに、仁の煙草を勝手に一本取る。


 煙草がうまいとは思わないが、酒とは合うからたまに買っていたりする。


 だが、今は当然持っていないし、銘柄も不本意ながら同じだから丁度良い。


 仁は別に気にするそぶりさえ見せず、相変わらず性悪なことを言う。



「おモテになることで。小春の次が簡単に見つかりそうだな。いや、もう見つかってるか」



 嘲るように鼻で笑った。



「嫌味を言いたいだけなら俺は帰る」



 冷ややかに言うと、仁は今思い出したかのような顔をした。