「……この間、抱き寄せようとしたでしょ?あれがすごく嫌だった」



 水野は俯きながら言った。


 木槌で頭を叩かれたような衝撃だった。


 嫌か。


 それは、そうか。


 好きでもない男に、そんなことされたら嫌だよな。


 俺も女に引っ付かれるのは鬱陶しい。


 わかる。


 わかるが、ショックだ。


 水野は言うのが相当恥ずかしかったのか、頬がほんのり赤い。


 可愛い顔をしながら、こんなセリフを言われるなんて。


 すごく嫌か。


 ただの嫌じゃなくて、すごく嫌か。


 違うシチュエーションで頬を染めて欲しかった。


 心の中だけでため息を吐いた。




「それは悪かった。謝る。いかがわしいことは絶対にしない。だから良いだろ?万が一したら、即刻やめて構わない。頼む」



 俺がこんな風に頼みごとをするなんて、お前だけだぞ?


 こんな必死になるのも。


 そう言うこと、わかってるのだろうか?


 どれだけ俺がお前に惚れているのか。



「わかった。友達としてで良いなら」



 俺の必死さが良かったのか、俺の勢いに押されたのか頷いてくれた。


 これは確実に一歩前進だ。













 それから、俺は水野と一緒にいられる時間がぐっと長くなった。


 二人で、ゆったり、まったり過ごせる。


 俺の願いが聞き入れられ、たいてい一緒に夕食を取る。


 お互いの家を交互に使い、夕食も交代で作る。


 時折、二人で作ったりもする。


 水野の飯はうまい。


 何を作らせても、俺の舌に合う。