「今日、仁と会うんだろ?ずいぶん、めかしこんで」
踵の高い靴なんて、普段こいつは履かない。
仁と会う時だけだ。
おまけに髪はご丁寧に巻かれ、服だって普段とは違う。
唇はグロスで艶があるし、頬もほんのり赤くなっている。
ほら、図星だ。
目を見開いて俺を凝視してる。
「傍から見ると、お前怖いぞ。振られたくせにデート気分で出かけて。仁だって振った女が気合入れて現れたら気持ち悪いんじゃねぇの?少なくと……」
「いや~、今日は一段と可愛いと思ったらデートだったんだね!!」
広也が大きな声で話に入ってきた。
「デート気分は水野だけ。相手は子守だと思ってる。何たって、女として見てもらえなくて振られてるわけだしな」
「俊!!お前、良い加減にしろっ!」
こいつはうるさいな。
眉間に力が入る。
水野はどう反論するだろうか。
相当、怒るに違いない。
仁のこととなると黙っていられないやつだ。
ここまでの侮辱を受けたなら、平手が飛んでくるかもな。
それでも、こいつの無神経な発言を聞いているよりマシだ。
俺は好きだと伝えた。
水野は俺の気持ちを知っている。
それでこれだ。
こいつは、キツく言わないとわからない。
仁と喧嘩をした時みたいに、俺がお前のことを心配して言っているなんて。
これなら思えないはずだ。
何が、佳苗のことを好きになっただ。
何が、仁が気分を害するだ。
ここまで言えば、こいつは烈火のごとく怒る。
確実に怒鳴る。
一時の我慢だ。
それで自分の発言を反省してくれれば良い。
そうしたら、俺も謝ろう。
本人にその気はなくとも喧嘩を売ってきたのは水野だ。

