「鈴さん…」
そう言ってゆっくりと抱きしめると。
思いのほか、鈴さんは抵抗しなくて。
「今日だけ、泣かせてください」
と俺の腰に手を回しながら子供のように泣いていた。
「…」
…言えるはずがなかったこんな状況で。
自分が彼女の悲しむ原因の理由の1つだという事に。
自分が、彼女の兄だなんて言えるはずなんかないんだ。
だから今は、今だけはこうして抱きしめさせてほしい。
真実は知らないほうがいいこともあるってこういうことを言うんだよな。
「…だせぇ、」
彼女をマンションまで送り届けたあと静かにそうつぶやいた言葉は静かに空中へと消えていった。

