「……ノブオ!?」

ライトに照らされた顔を見て健太郎は声を上げた。

「今までどこ行ってたんだ!探しまくったんだぞ!」

しかし、ノブオは何の反応も示さない。

「なんとか言えよノブオ!」

そう言って健太郎はノブオの肩に触れようとしたが、その手は振り払われた。そして、無表情でノブオは言った。

「気安く触るな」

ノブオの目は赤く染まっている。そんな姿に健太郎は困惑した。

「…ノブオ?」

「ヘッドフォン持ってるか?」

ノブオは戸惑ってる健太郎に向かって唐突に聞いてきた。

「ヘッドフォン?それなら隣の建物に…」

「違う。お前らが持ち込んだやつだよ」

「ああ、陽ちゃんが」

健太郎がそう答えると、ノブオはいつの間にか手にしたナイフを健太郎目掛けて突きつけてきた。

「なんのつもりだっ?!ノブオ!!」

健太郎は間一髪後ろに下がってかわした。

「俺の為なんだ」

そう言うと、ノブオは再び健太郎に飛びかかった。
ブスッ。鈍い音がした。床に血が滴り落ちる。

「…優!!」

健太郎は叫んだ。

「…お前、先行ってろ!」

「でも!」

「俺は…大丈夫だ」

優は腕に刺さったナイフを掴んで引き抜いた。それと同時に血が溢れ出してくる。それを見た健太郎の脳裏にあの時の記憶が再び蘇ってきた。ノブオの姿が不良グループのリーダーとダブって見える。そして、分離した。健太郎の方へと近づいてくる、記憶の中のあの顔。

「嫌だ…」

「早く行け!」

優がもう一度叫んだ。

「…お願い…やめて…」

健太郎の目の前には不良グループが立っていた。

「おい、待て!」

ノブオのその声に健太郎は反射的に逃げ出した。震える足で階段を全力で駆け上がる。

「もう嫌だ!もう嫌だ!」

健太郎は浮き上がってくる記憶を振り払うかのように暗闇に突っ込んだ。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

頭の中にはつらかった中学時代の記憶が次々と溢れていく。

「どうして僕が?どうして僕だけ??」

健太郎はもつれる足を必死で動かしながらその記憶に尋ねた。