健太郎と優は人影が見えた建物の方に急いで戻った。

上の階に進む度に足の感覚が失われていくようだった。それに体全体が重く、息苦しく、気分も悪く、暗闇の先には何かとてつもなく恐ろしいものが待ち構えているような気がしてならない。それでも健太郎は無言で足を進めた。

「嫌な予感がする」

優が言う。健太郎もそれは感じていたので驚きはしなかった。ただ、言葉に出された事で、さらに状況が悪化したような感じがした。
三階には幾つかの部屋があったが、ライトを当てて誰もいない事を確かめるとすぐに上階へと急いだ。

どこの部屋も人の気配はなく静まり返っていた。その静けさが空気の冷たさを強め、すでに全身の感覚は奪われていた。

「おい、なんか異常に寒くねぇか?」

優の吐く息が白く漂う。

「…そうだな」

健太郎は寒さで固まった唇をやっと動かした。
すると、その時…二人の耳に音が聞こえてきた。

「コトッ、コトッ、コトッ、コトッ…」

「…足音?」

「みたいだな」

その足音は上の階から聞こえてくるようだった。二人に緊張が走る。

「コトッ、コトッ、コトッ」

次第に足音は大きくなっていく。そして、二人がいるフロアへと下りてきた。薄暗い部屋に足音だけが重く響く。二人は息を飲んで足音の正体を探ろうとしたが、そうするまでもなく次の瞬間それは二人の前に姿を現していた。