フラフラと建物の方へと歩いて行く。白いのになぜか暗い印象を与える建物には、正面の中央に入り口らしき大きな扉が一つあり、その上にはいくつかの窓らしきものが見えた。そのさらに上方には濁った空が広がっていたが、ノブオには見えなかった。

「あの変な臭いで、俺は…」

その先がどうしても思い出せない。しかし、それは思い出せないのではなく、記憶そのものがないのである。その事に気付いていないノブオは扉の前で必死に思い出そうとしていた。

「俺は…どうやって、ここに来たんだ?」

答えはノブオの中にはなかった。その事にようやく気付いたのか、考えるのをやめるともう一度建物を見上げた。

「なんなんだよ、これ。こん中に入れって事なのか?」

ノブオは後ろを振り返った。道は森の中へと続いている。というより、消えてなくなってしまっている。これはこの建物だけに向けられた道なのだ。ノブオはそう思うと、建物の方に向き直して扉のノブに手をかけた。少し緊張して引くと、扉は音もなく静かに開いた。そして、ノブオは建物の中に足を踏み入れた。