「ハァ、ハァ、ハァ、ハァハァ…」

淡い闇の中で、白い息が現れては消えていく。
黒い空に月はない。すべてが何かに包み込まれたような、そんな息苦しさの中を男は全力で走っていた。
無機質な木々が前に立ちはだかる。それはどれも同じような色や形で、作り物みたいに見える。実際どうだか分からない。

光がないのにどうやって生きているのだろう。

男は一瞬そんな事を考えたが、今はそれどころではない。息が荒く苦しい。胸から飛び出しそうな程、心臓は膨れ上がっている。全身汗でずぶ濡れで、服が皮膚に密着する。それがとても不快だったが、男は全力で走らなければならなかった。