がたん__がたん__。


不規則なリズムに揺られ、私は目を閉じる。

今は夕方で、会社帰りの大人達は少なく、たくさんの友達と乗り込んだ女子学生の高い声が耳に障った。





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「あのね、この町の一駅先でいいわ。歌ってきて」

それだけじゃ、何言われてるか分からないよ。って、心は訴えてたけど、生憎言葉にする勇気はなかった。
この母の言葉を理解するのに精一杯で、それから伝えられたことはまったく耳に入らなかった。

「そうね、あの駅の近くに歌っていい場所があったと思うわ」

そうなんだ。初めて知ったよ。

「あ、一応駅員さんに確認とりなさいよ」

そうだね。迷惑になるかもしれないし。

「ほら、貴方の夢、歌手だったでしょう? 路上ライブでもすれば、なれるかもしれないわよ」

あ、そういえばそんな夢見てたっけ。

「唄奈は歌上手いから、きっと大丈夫よ」

「何が大丈夫なの?」

気がついた頃には、もう遅かった。つい溢してしまった私の疑問は、母親を困惑させてしまった。それでも、口が止まってくれない。

「路上ライブやれば、ずっと頑張ってきた歌だから、私なら少しでも稼げるって思ったんだよね。それで歌いに行かせるんだよね」

ごめんね、お母さん。
返事がないのを肯定だと悟った私は、電車代だけ貰って、ギターを担いで玄関に向かった。

「頑張ってくるよ、私。帰りは遅くなるかなぁ。晩御飯はとっておいてよね。じゃあ__」

早口で、靴を履きながらそこまで告げた時だった。後ろから温もりを感じた。
振り返らなくても分かる、それは母のもので、またあの日のように

「ごめんね」

なんて呟く母。私を宥めるためだけでない。心の底から私に謝罪をする母に、心が痛んでしかたない。今にも潰れてしまいそうな胸にそっと手をあてる。大丈夫。

「行ってきます」

と微笑んだ。笑った。振り返って、母に私の笑っている姿を見せた。ほら、私は大丈夫だから。私の笑顔で少しでも母が元気になるなら、いつだって私は笑っているから。母が元気になるなら、歌ってくるから。