「拓海、お前D組の沢田に告られたんだって?」



俺の前の席に座りながらケータイを弄る山本 智也がなんの前触れもなくそんなことを言ってきた。


俺は思わずため息をつく。



「オイオイ。ため息はひでーンじゃねぇの」


「そりゃつきたくもなるよねー。だって、たーくんが沢田さんに告白されたのついさっきの事だもんねー」



弄っていたケータイから顔を上げた智也に俺の隣の席に座る安藤 伊純(いずみ)がペンをクルクルと指で器用に回しながら呆れたように言う。


伊純が俺の気持ちを代弁してくれたことにより、俺はうんうんと頷くだけだった。



「さっきクラスの女子が話してるの聞いたんだよ。誰だったかなぁー。確か名前は──田中さん?」


「誰だよそれ。うちのクラスには中田さんしかいねぇよ」



逆じゃねぇか、逆。


全く、こいつはどこまでテキトー人間なんだ。「あー、そそ。中田さんだ中田さん」とかいかにもインプットしましたみたいな顔をしているがどうせすぐに忘れることを長年の付き合いの俺には分かる。