イヌオトコ@猫少女(仮)

何が起こったのかわからず、固まる遊月。


鳶川の額に、


ぽこん!
と命中し、仰け反った後ろからタイミングよく来たランドリーカートに倒れこむ。



半分ほど中身の入ったペットボトルだ。


手近にある尿瓶を投げたかったが、さすがにやめた。



「け!!大した怪我もしてへんくせに!!
たいそうに松葉杖なんぞ突きよって!!
俺の方が重症やっちゅうねん!!」


「……お、お兄ちゃん!?!!」


ちっ、と舌打ちする葦海。



「そんな元気あるんやったら、こっちの介抱しろや!!」


「お兄ちゃん!!!!!」


兄のそばに駆け寄ると、首元に抱きつく遊月。



「ええい!!なにしに来たんや!!帰れ帰れ!!シッシッ!!」



遊月の腕を払い除け、横柄に言い放つ。



「チョロ吉も!!いつまで引っ付いてんねん!!ボケッとしてんと、肩貸せ!!肩!!」



鳶川を助けていた笑結が思わずそのまま鳶川に抱きつく。



「戻った!?やったあ!!」



「お前!!!!抱きつく相手が違うやろうが!!!!ボケ!!」



目の前で抱きつかれ苛立つ。



「え〜〜っ?じゃあ誰に抱きつくんですかあ??あっ、護浦さんかなあ??」



にやにやしながら笑結。
拗ねる葦海。

呆れる護浦。


「し!知るか!アホ!!」


「せんせい!!!」


鳶川を、ぽいっと放すと、葦海に駆け寄る。


結局扱いが雑になる。


「そんなあ」


「よかったあ!!いつものせんせいだあ!!」


泣きながらしがみつくと、


「………A」


一瞬きょとんとするが、赤くなって胸を押さえ、はっ!と離れる。

「ばか!!もう知らない!!」


「肩!!肩、貸せって!!便所!便所行きたいねん!アホ!!」


本当は2人きりになりたいだけだった。


「尿瓶、ありますよ。ほら、ほら」


「ほほーう、ここでしろってか」


「だって、その足じゃ、肩貸したって動けませんよ」


ふう、と息をつき、


「しょうがないなあ。ほら、トイレ、行きますよ。おじ〜いちゃん」


生き生きする笑結。水を得た魚だ。


「だ・れ・が、おじいちゃんや。こら。おじさんまで通り越しよって!腹立つ!」


「えへへへ」


また頬をつねろうと手を伸ばすがギリギリでよける。


「待て!こっち来い!この!」


「や〜だよ」


また子供の喧嘩が始まる。


呆れて見守る逢と悠、母。

これでいいんだ、と鳶川。


「いてて!!痛い!腹痛い!」


突然顔をしかめ、腹を押さえる葦海。


「またまたあ」


言いながらも心配して除きこむ笑結。


首元をがっしりと抱き抱えると、引き寄せ唇を塞ぐ。


「実地研修、覚悟しとけよ。泣いてもやめへんからな。ジ○イ子」

涙を拭うと髪をわしわしと掻きながら苦笑いする遊月。


「かなわんなあ、ほんまに仲ええんや。ウチにもそんな顔見せたことないのに」



数日後。

病院のテレビと朝刊で、

父の会社の親会社が、敵対する葦海電子工業との吸収合併が、ニュースで流れた。


親会社自体も、不況で経営困難な状況で、手放した子会社もいくつかあった。


唯一、3年掛かりで開発途中だった専売特許の父の発案商品が、


葦海の会社の求めるもので、葦海の会社で完成させたいので


会社ごと売ってほしいと要望があったのだ。


改良を重ね、何度も試験したがなかなか実現できずに残業する毎日だった。

父の会社にとっては救いの神だった。


「マジか…」


「……どういうこと?」


病室でテレビを見ながら2人。


「親父さんの会社と一つになって、同じ会社になったんや!

つまり親父さんに反対される理由が一つ減ったっちゅうこっちゃ。
けど残念やったな。社長婦人になれんくて」


「しゃちょうふじん??」


無欲で実直な笑結には、飲み込めない。


「ま、反対されても関係ないけどな」


「反対、されてたんだ。付き合ってもないのに」


まだ、を付け忘れた。


「いや、そこかい!」