イヌオトコ@猫少女(仮)

「そ、その方が、いいでしょうね。ありがとう」


言いながら、少しずつ動揺する葦海。


大人として割り切ろうとする自分と、引き留めようとする自分がいた。


壁伝いにゆっくりと入り口に向かう笑結。

止めようとした葦海。


「いや、ちょっと待って…」


足を絡ませて転んだ。


丸2日、意識なく眠っていたのだから無理もない。


膝丈のワンピースから、インナーで履いていた、


三毛猫の、毛糸のパンツが露になった。


母がよかれと思って履かせていたのだ。


「きゃあっ!?」


「ねこ……」



葦海が、なんの意識もなく口走る。


どこかで自分が発した言葉だ、
と、うろたえる。


『毛糸のパンツの、チョロ吉ミケ子』



うひゃひゃ、



と笑う自分の残像が、脳裏に映る。



『うるさ〜〜い!!』



怒る笑結の残像が、見えた。



「えっ??僕??なに??どこで……」



間違いなく、2人の記憶でしかなかった。


真っ赤になった笑結が、慌てて裾を直し、立ち上がろうと棚に手をかけた。



ショルダーバッグの紐に触れ、バッグが

ばさっと落ちる。


緩んでいたジッパーから傘が転がった。



「あっ………?」




思わず声が重なる。



景色が。




白くなる。




走馬灯のように。




光景が。




巡り、




どこかに置き忘れてきた、


記憶という名の、


巨大なシャボン玉のような水泡の塊が、



どこからともなく飛んできて、



笑結の、脳に、からだに目掛けて一直線に、降ってきた。



全身に、



ばしゃあっ!!!


と、


叩きつけられるような衝撃を浴びた。





もちろん誰の目にも見えない。


「笑結??」


ぶるぶるぶるっ、と身震いする笑結。



忘れてはいけない。


この人を。


私は。



「お兄ちゃん、まだ持ってたんや。おじいの傘」


「ご、ごめんなさい」


傘を拾って、慌てて立ち上がり、バッグを元に戻す。


鳶川に近付くと、


「そうだ、とりかわくん。退院したら、またデートしようね?今度はどこに行こうかな?」


わざとらしいほどの棒読みで、腕を絡ませる笑結。


赤くなって慌てる鳶川。


「えっ?えっ??なに??」


突然の展開に驚く遊月。


「そういうことですから、せんせい、お大事に。さようなら」


さっきの涙が嘘のように、貼り付いたような作り笑顔になり、


当て付けるように鳶川に絡み付いた。


「行こう」


「笑結…?」


あまりの大胆さにまた母が驚く。人前でこんなことを、と、

倒れそうになる。


自分の娘がわからない。


「ちょっと!!お兄ちゃんの前で!なにして……」



さすがにムッとした遊月が、


文句のひとつも言わなくては気が済まなくなって、笑結に向かっていった。


「えっ…」


その顔のすぐ脇をかすめて何かが飛んだ。